第175話 開催準備

 そして慌ただしい日々が過ぎて、丈二たちは肝試し大会の当日を迎えた。


「よーし、皆。今日はたくさんのお客さんが来るから、頑張ってくれ!」

『うにゃー!』

『わん!』


 丈二の号令に、犬猫族が元気よく返事をする。

 彼らはおはぎダンジョンの広場から散り散りに広がって、各自の持ち場へと向かった。


「いよいよ、本番ですにゃあ!」

「そうだな……なんだ、その恰好……」


 振り向くと、そこに居たのは白い布を被った何かだ。

 声からするとサブレなのだろう。


「幽霊の仮装ですにゃ!」

「幽霊っていうか……ベッドシーツの化け物だぞ……」


 そもそも、猫が立って歩く時点で妖怪っぽさがある。

 わざわざ、サブレが仮装をする意味がない。

 丈二が白い布を外すと、静電気で張り付いた毛を戻そうとサブレはぶるぶると体を振るった。


「脅かし役たちの準備は大丈夫そうか?」

「バッチリですにゃ! 定刻には肝試し大会を始められますにゃ」

「分かった。そのまま準備を進めてくれ」

「了解にゃ!」


 サブレはビシっと敬礼を決めると、タッタカと走り去った。

 ふざけているようで仕事が出来るのだから、サブレは不思議である。

 そして、サブレと入れ替わって丈二に近づく人影が。


「先輩。お客さんたちは時間通りに到着するそうです」

「分かった……って、お前もか……」


 声をかけてきたのは牛巻だ。

 なぜか頭には猫耳を付けて、ミニスカ浴衣を着ている。

 胸元からは『みぃ!』とごましおが顔を出していた。


「……もしかして、化け猫の仮装か?」

「その通りです。似合ってるでしょう?」


 牛巻はくるりと回った。腰から伸びた二本の尻尾が揺れる。

 正直に言えば似合ってる。丈二もドキッとしたほどだ。

 しかしながら問題がある。


「渋谷のハロウィンに居そうで、怖くないな……」


 ポップ過ぎてコスプレ感が凄い。

 ビッグサイトや渋谷に出現しそうな雰囲気だ。

 肝試し大会には合わないだろ……。


「私はお客さんの案内をするわけですし、最初から怖すぎてもアレじゃありません? お客さんの年齢的にも」

「確かに、相手は小学生だしな……」


 肝試し大会のお客様として招待したのは、近所の小学校に通う子供たち。

 招待する発端となったのは、ケガをしていたサブレを丈二家に連れてきてくれた子供たちだ。


 彼らを招待しようと声をかけたところ、お友だちも連れてきたいと相談された。それも、出来れば沢山。

 それならばと学校側に生徒の招待を提案してみたところ、すんなりと企画が通った。

 課外授業として、むしろお願いしたいらしい。


 そして現在は夏休み期間だというのに、生徒たちを学校に集めて連れて来てくれるそうだ。

 もっとも、流石に全ての生徒は受け入れられないため、やって来るのは六年生のみである。


「それに、最初はおはぎたちとの触れ合いコーナーだしな……その可愛い格好で良いか」

「にゃ!? か、可愛いなんて褒めても、なにも出せませんからね!」

「はいはい。本心を言っただけだから、期待してねぇよ」

「ふぐ!? うぐぐぐぐ……先輩の癖に……」


 牛巻は顔を真っ赤にして、バイクみたいに唸っていた。

 しかし、今日の丈二はイベントで忙しい。牛巻と遊んでいる暇は無い。

 丈二は牛巻を放っておいて、肝試し大会の準備を急いだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る