第174話 本職さんですか?

 モングリアに遊びに行ったりしていた丈二たち。

 しかし、そもそもの目的は肝試し大会の学びを得るため。

 そして、その肝試し大会のメイン舞台が無事に完成をしたとの知らせを受けて、丈二はさっそく見学へと向かった。


「おぉー、雰囲気出てるなぁ……」


 おはぎダンジョンの森。

 その奥に古めかしい日本家屋が建っていた。

 本来であれば、なんの変哲も無い家だが、うっそうとした森に建てられたことで異様な雰囲気をかもしだしている。

 新築のはずなのに、薄汚れた壁はリアリティを押し上げている。


「ぐるぅ?」

「おはぎは平気そうだな……」


 おはぎには、あまり怖さが伝わっていないらしい。

 『怖いかなぁ?』と、首をかしげている。

 この不気味さは、強者であるドラゴンには感じにくいのだろうか。あるいは、単純におはぎが恐怖に強いのかもしれない。

 思えば、モングリアのお化け屋敷でも、きなこやサブレに比べて落ち着いていたように思える。


「俺は見てるだけでも怖くなって――うおぉぉぉ!?」


 お化け屋敷を眺めて背筋を寒くしていると、丈二の首をひやりと冷たい物が撫でた。

 びょん!!

 体が跳ね上がり、思わず叫んでしまう。


「な、なんだ!? さ、サブレぇぇぇぇ……」

「うにゃにゃ。大成功にゃ!」


 後ろを振り向くと、そこに居たのは『にしし』と笑っているサブレだった。

 手には木製の釣り竿を持っており、糸の先にはこんにゃくがぶら下がっている。

 こんにゃくを丈二の首元に当てて、いたずらしたらしい。

 昭和の悪ガキみたいなやつである――丈二は平成生まれなので、あくまでイメージだが。


「なんで、こんにゃくなんて持ってるんだ……」

「肝試し大会で使おうと思ってますにゃ!」

「いや、駄目だぞ」

「にゃんですと!?」


 残念ながら、肝試し大会でこんにゃくを使うことはできない。


「びっくりさせ過ぎて、体調が悪くなったりすると困るかな。心臓の弱い人なんかは死にかねないし……いちおう、招待する時には『心臓が弱い人は入らないで』って伝えるけど……」

「それは盲点でしたにゃ……そうなると、事前に丈二さんにチェックした貰った方が良いですにゃ?」

「いや、俺は当日に配信しなきゃならないから、事前に中身を知るのは控えたいな。演技でリアクションとかできないし……」


 肝試し大会当日には、丈二自身が肝試しに挑戦する様子を配信するつもりだ。

 なのに、中身を知っていては驚きようがない。

 ましてや、驚く演技なんて丈二にはとてもできない。


「……牛巻にやってもらうか」

「そうですにゃ。テストと称して思いっきり脅かしますにゃ!」


 牛巻が居たら『怖いこと押し付けないでくださいよ!?』と文句を言っていたかもしれない。


「とりあえず、中も見て良いか?」

「どうぞにゃ!」


 念のため、建物の中もチェックしておきたい。

 丈二がすりガラスの玄関に手をかけると。

 ㇲッ。

 白い影が、ガラスの向こうを横切った。


 サブレたちケットシーや、コボルトたちに比べると背が高い。

 ちょうど人間くらいの大きさだった。

 だが、今のは誰だ?

 そう考えると、丈二の背筋が凍った。

 

「なぁ、ラスクが中に居るのか?」

「居ませんにゃ。今は演技の稽古中ですにゃ……牛巻さんじゃないですにゃ?」

「いや、俺が家を出てくるときに牛巻は台所に居た。俺よりも早く着いてるはずはない」

「じゃあ、誰ですにゃ……?」

「……」

「……」

「ぐるぅ?」


 丈二とサブレの間に沈黙が流れる。

 おはぎだけが、『どうしたの?』と首をかしげていた。


「丈二さん、僕は聞いたことがありますにゃ。お化けの話をしていると、お化けが寄って来るって」

「じゃ、じゃあ、何か? 本物が寄って来たってことか?」

「そうとしか考えられませんにゃぁぁぁ」


 サブレはグッと丈二の足にしがみついて、ぷるぷると震えている。

 丈二もギュッとおはぎを抱きしめた。

 正直言って、超怖い。だって幽霊と戦ったことなどないもの。

 もしもの時は、おはぎのビームで建物ごと消し飛ばすしかないかもしれない。


「と、とりあえず開けるぞ……」

「えぇ、止めときましょうにゃあ!」

「いや、普通に不審者かもしれない」

「絶対に幽霊ですにゃあ!」


 震えるサブレをいったん無視して、丈二は再び玄関に手をかけた。

 ええい、ままよ!

 勢いよく扉を開けると、そこに居たのは。


「んごー?」

「ま、マタンゴ……?」


 おはぎダンジョンの森にすみ着いてるマタンゴたちだ。

 いつかには争ったこともあるが、現在では薬草栽培を手伝ってくれている仲間である。

 そして、彼等はキノコの巨人を作り出して操るのだが、家の奥には人ぐらいの大きさに抑えられたキノコ人形が佇んでいた。

 つまり、丈二たちが怯えていた幽霊の正体である。


「んごー」

「んごんごー♪」


 マタンゴたちは『湿っぽい』『気持ち良い♪』と喜んでいるようだ。

 どうやら、家の環境が気に入って住み着いていたらしい。


「怖がって損した……」

「一足早い肝試しでしたにゃ……」


 丈二とサブレは、へなへなと座り込んだ。

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