第173話 グッズ販売

 モングリアに遊びに行ってから数日後。

 大きな段ボールが届いた。大きさの割には軽い。

 差出人は――どうやらモングリアのようだ。


「あ、もしかして、あれが届いたのかな」


 丈二は荷物を持って居間に向かう。

 カッターを取り出して、段ボールを開こうとすると。


「先輩、待ってください!」


 ちょうど、お昼の準備を始めようとしていた牛巻に止められた。


「お、どうした?」

「それ、例の荷物ですよね。カメラ、回しますよ!」

「おぉ、そうだった……」


 流石はサブレに配信の極意を教えている牛巻だ。

 しっかりと、カメラの回しどころを抑えている。

 ……むしろ、しばらく配信活動をしているくせに、まったく気にしていない丈二が抜けているのかもしれない。


 ともかく、牛巻はポケットから最新型のスマホを取り出した。

 そうして投稿された動画が、こちらである。


 画面に映るのは丈二と大きな段ボール。段ボールの上にはカッターが置かれている。


「えーと、モングリアから荷物が届いたので開けて行こうと思います」


 丈二は台本でも読むように棒読みで喋る。

 そしてカッターを手に取ると、段ボールを閉じるガムテープに刃を入れた。


『お、なんだなんだ?』

『モングリアからのプレゼント?』

『なんやろか』


 丈二が段ボールを開けていると、おはぎがテクテクと歩いて来た。

 どうやら段ボールが気になるらしい。

 クンクンと匂いを嗅ぎながら、段ボールの周りをグルグル。


『そわそわおはぎちゃんカワヨ』

『猫とかって、段ボール空けてると寄って来るよなwww』

『自分へのプレゼントが出てくると思ってるんだろうなw』


 丈二は段ボールを開く。そしてゴソゴソと中身をあさった。


「おはぎ、じゃじゃーん」


 丈二が取り出したのは、おはぎにそっくりなぬいぐるみだ。


『おお、可愛い!』

『おいくらですの!?』

『お嬢様で草』


 ぬいぐるみを見せられたおはぎはびっくり。

 クンクンと匂いを嗅ぎながら、不思議そうにしている。


「ぐる?」

「はは、おはぎを真似して作った人形だ。ほら、ぜんざいさんのもあるぞ」


 丈二はさらに段ボールからぬいぐるみを取り出す。

 今度はぜんざいにそっくりだ。

 もちろん、大きさはおはぎくらいのミニチュアぜんざいだが。


「かっこいいだろ。がおぉー」

「ぐるぅ♪」


 丈二はぜんざいのぬいぐるみを使って、おはぎを押し倒す。

 そしてぬいぐるみの鼻の当たりを使って、こしょこしょとくすぐった。

 おはぎはそれが楽しいらしく、パタパタと転がりながら尻尾を振っている。


『イチャイチャしてて草』

『俺も猫とか飼おうかなぁ。独り身で寂しいし……』

『お、独身フラグが増えたな!』

『結婚前にペットを飼うと、高確率で独身を継続することになる』

『つまりジョージも……』


 丈二がおはぎと遊んでいると、ドンドンと画面外から音が鳴った。

 しかし、丈二は気づかない。


「先輩! 宣伝してください!」

「おっと、そうだった……」


 画面外から女性の可愛らしい声が聞こえる。

 ちょっとアニメ声だ。


『そうだった。ジョージにはスタッフさんが居るんだった……』

『VTuberとかやってそうな声しとる』

『ジョージの裏切り者ぉ』

 

 一部の視聴者から怨嗟の声が出るが、今回は配信ではなく動画だ。

 その声は丈二には届かない。


「というわけで、モングリアとのコラボグッズが販売されます。モングリアでの販売と、通販も予定されているので、ぜひチェックしてみてください」

「ぐるぅ!」


 おはぎが片手を上げて、ちょいちょいと手を振ったところで動画は終わった。

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