第170話 次回は水着回
「ご協力ありがとうございました」
「いえいえ」
刑事から返して貰った身分証を、丈二は財布にしまう。
背後では牛巻とラスクが、ひそひそと話をしていた。
「ラスクちゃん、この耳と尻尾って何時になったら取れるの?」
「あ、ごめんなさい。私だけじゃ取れなくて……ごましおちゃんが許可してくれないと……」
「みー!!」
ごましおは牛巻の胸元から顔を出して、『ずっとこれで良い!!』と主張していた。
なんとも迷惑な話である。
丈二などは、配信で猫耳を付けただけでも辛かったのに、ずっと猫耳を付けるとなったら……。
「我がまま言わないで、元に戻しなさい!」
「みぃぃぃ!!」
牛巻がごましおを捕まえると、ごましおは小さな足をケリケリと動かし反抗していた。
傍から見ていれば動物と戯れている微笑ましい光景なのだが、今後の日常生活がかかっているとなれば、牛巻は必至だろう。
だが、丈二としては牛巻の猫耳以上に気になることがあった。
「それよりもさ……なんか、お前ら魚臭いぞ……」
牛巻たちは魚人たちと戦っていたせいか、魚の臭いが移っていた。
特にラスクは返り血を浴びていたせいか臭いが強い。
屋外ならば気にならない程度だが……このままでは帰りのバスの中は悲惨なことになるだろう。
「ぴぃ⁉ 気にしてたのに……」
「ちょっと先輩、女の子に臭いとか言わないでくださいよ! セクハラですよ⁉」
「あぁ、すまん……でも、お風呂とか入った方が良いぞ」
「やっぱり臭いんだ……」
「先輩のデリカシーの無さに、牛巻ポイントをマイナス百点です」
「なんだ、そのポイント……」
ラスクはすんすんと来ている服を嗅いでいた。やっぱり魚臭かったらしく、渋い顔をしている。
とんとん。丈二の肩が叩かれる。振り向くと刑事が居た。
「丈二さんたちは、モングリアに来てるんだろう? それなら、あそこのホテルを使えば良い。俺は行ったことが無いが、でっかい風呂場があるらしいぞ」
「おお、それは良いですね」
「がう!」
風呂と言う単語が出た瞬間、太陽が影に隠れた。
ぬっと現れて丈二たちを影に隠したのは、ぜんざいだ。『我も行こう!』と風呂にノリ気である。
相変わらずの風呂好きだ。
「そうですね。ぜんざいさんも戦って臭いが付いたでしょうし……モングリアの風呂を借りられるように頼んでみます」
その後、丈二たちはぜんざいの背に乗ってモングリアへと戻る。
モングリアの入り口から少し入ったところでは、中鼠とサブレが待ってくれていた。
しかし、二人はなにやら話し込んでいるらしい。
サブレの隣では、きなこが退屈そうに地面をついばんでいた。
「いやぁ、凄いシェルターでしたにゃ!!」
「お褒め頂きありがとうございます。尊大に聞こえるかもしれませんが、当施設のシェルターは日本一を自負しております。そこらのモンスターには絶対に破られない頑強さ、密封すればあらゆる有害物質の侵入を防ぎ、一週間は問題なく生活できるだけの備蓄を用意しております。これらの機能は国からも信頼を得ておりまして、有事の際には近隣住民の避難場所にも設定されています」
「あれなら、万が一があっても安心ですにゃ」
どうやら、モングリアのシェルターについて話しているらしい。
チラリと配信画面を覗いてみると。
『あれだけ準備してるなら、何かあっても大丈夫そう!』
『ときわ市って探索者が出稼ぎに行く街のイメージだったけど、遊びに行ってみようかなぁ』
『モングリアもクオリティ高いよなwww』
どうやら、意外と好評らしい。
モングリアの一番の問題点は、安全性への懸念だ。
ダンジョンの多い街に作られた遊園地には、モンスターが襲ってくる危険性を感じてしまう。もちろん、ダンジョンからモンスターが出て来るなんてことは、そう簡単には起こらない――はずである。
それでも『もしもの事』を心配してしまうのが人の
実際、その事件が配信中に起こってしまった。
ならば、『もしも』が起こっても安全だと思って貰えれば、心配は払拭される。
モングリアのシェルターは、その安心感を与えられるだけの充実した設備を持っていたらしい。
ダンジョンからモンスターが流出するアクシデントは起こったが、結果的にモングリアの宣伝へと繋がったのかもしれない。
「うにゃ。丈二さんお帰りにゃ!」
「おっと、申し訳ありません。解説に熱中してしまいまして……」
「いえいえ、気にしないでください」
サブレに合わせて、くるりとカメラが丈二を捉える。
『ジョージお帰り。シェルター凄かったぜ!』
『銀行の金庫みたいだったよなwww』
『ウチの近所にもシェルターはあるけど、あれに比べるとタンス貯金だわ……』
「すいません。離れてしまって……それとモンスターとの戦闘で魚臭くなってしまったので、これからモングリアのホテルを取材しながらお風呂をお借りしようと思います」
「はい。事前に連絡を頂いておりましたので、準備は出来ています。こちらへどうぞ」
丈二たちは、中鼠の案内でモングリアホテルへと向かった。
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