第169話 任意同行?
精神的ダメージによってダウンしていた丈二。
そこに近づく人影があった。
「あぁー、ちょっと良いか?」
「すげぇ。本物のおはぎちゃんだ。ドラゴンだ……」
近づいて来たのは、現場の指揮をしていた刑事と若い警官だ。
気まずそうに話しかけてきた刑事。それとは対照的に若い警官は目をキラキラさせておはぎを見ていた。
男は何歳になってもドラゴンが好きなのだ。
「あぁ、はい。刑事さんですよね?」
「そうだ。まずは、事態の収拾へのご協力を感謝いたします」
「あ、いえいえ、探索者の務めですから……」
刑事はスッと敬礼をした。
思わず丈二も敬礼を返すと、隣に居た警官を含めて現場に居た全ての警察関係者が敬礼をしてきた。
いきなり全員が動き出したのでドキッとした。触ってもいない機械が急に動き出した時みたいな感じだ。
「あ、警察は敬礼に応えるのが義務なんですよ。もちろん、純粋にジョージさんに感謝してるのもありますけどね」
困惑する丈二に、若い警官が教えてくれた。
流石は治安を維持する国家公務員。その辺は厳しいらしい。
「ともかく、貴方のおがげで何とかなった。結果的に死傷者もゼロみたいだしな」
刑事はチラリとダンジョンの方を見た。
そちらには先ほどまで戦っていた探索者や警察関係者たち。
中にはバックリと装備を引き裂かれた探索者も居る。彼は裂かれた装備の隙間から、不思議そうに自分のお腹を撫でていた。
装備の惨状を見るに、彼はモンスターに襲われて大きな怪我を負っていたのだろう。
しかし、おはぎと丈二による回復ビームによって、すっかり治ったようだ。
「本当に感謝してる。感謝してるんだが……貴方には任意同行を願いたい」
「うぇ!?」
任意同行という事は、これから警察署に連れて行かれて取り調べを受けるという事だろう。
丈二は顔を真っ青にする。
何か悪いことをしただろうか、必死に考えると一つ気がついてしまった。
(あ、もしかして、おはぎと飛んだのって駄目ったんじゃ……)
世の中には『航空法』と言うものが存在する。
丈二も詳しくは知らないが、要は空を飛ぶことを制限する法律だろう。
むやみやたらに飛行を許せば、空の事故が多発する。その事故によって生じた残骸は、地上を歩く人々に被害をもたらしてしまう。
何年か前には、ドローンの飛行だって制限されていたはずだ。
ドローンが駄目なら、おはぎも駄目かもしれない。
「あの……もしかして飛んだのが駄目でした?」
「え? いや、それは問題ない。探索者なんかにも飛べる奴は居るが、災害等の緊急時には無許可の飛行が許可されてる。今回もそれが適応される状況だ」
今回はお咎め無しらしい。
しかし、刑事の口ぶりからすると、やはり普段は制限されているようだ。
今後もおはぎで飛ぶのはダンジョンの中だけにしよう。
だが、そうなると任意同行の意味が分からない。他には悪いことはしていないはずだ。
「それでは、どうして任意同行を……?」
「それは貴方が今回の件に関して、我々が知らない情報を持っていそうだからだ」
「知らない情報?」
刑事はコンクリートでぴちぴちと跳ねている魚を見た。
「本来なら、そこのダンジョンはこういう魚のモンスターが出現する場所だ。さっきまで暴れてた、人間だか魚だか分からないような気色の悪い化け物どもが出てくるようなダンジョンじゃ無い」
実際に魚人モンスターたちは、おはぎの回復ビームを受けて魚モンスターへと変化した。
つまり、例のナメクジに寄生されていた可能性が高いだろう。
「いきなり現れた化け物共に、貴方はあらかじめ知っていたように効果的な攻撃を仕掛けた……線は薄いが、何か知っていると考えてもおかしくないだろう?」
その通りである。
いきなり現れた謎の化け物たち、それに速攻で対処する多数のモンスターを連れた男。
怪しいことこの上ない。
「そうですね。たしかに俺はこの事件の原因について知っていると思います。確証はないですけど……」
「それについて教えて貰えるか?」
「……すいません。ギルドから――探索者管理局から口止めされてて」
ギルドの名を出すと、刑事は外れのコーヒーを飲んだように苦々しい顔をした。
「ギルド……ってことは警察の上も絡んでる。下っ端公務員が突いても情報は出てこねぇか」
「すいません。何も話せなくて……」
「いや、貴方が悪いわけじゃない。念のため、身分証と連絡先の確認だけご協力ください」
「分かりました」
とりあえず、任意同行は無しになったようだ。
丈二が身分証を提示していると、横から若い警官が話しかけてきた。
「ジョージさん、いつも配信見てます。今日はモングリアに来てるんですよね?」
「はい。ちょっとご縁があって、遊びに来させて貰ってます」
「地元に来てもらえて光栄です! あと、おはぎちゃん撫でさせて貰っても良いですか?」
「ばか、職務中だ。お前も向こうで片づけ手伝ってこい」
「うっす……」
刑事に怒られて、若い警官はトボトボと歩いて行った。
刑事の言う事ももっともなのだが、少し可哀そうなので後でこっそり撫でさせてあげよう。
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