第168話 猫耳は二度刺す
丈二とおはぎが空を飛んでダンジョンに向かうと、ダンジョンからわらわらと飛び出すモンスターたちが見えた。
そのモンスターたちは異常なほどに興奮していた。
興奮している魚人のようなモンスターたちは、かつてナメクジに取り憑かれておかしくなっていたコボルトたちに似ていた。
そこで、いつものように回復魔法を合わせたおはぎブレスを食らわせてみたら、これが的中。
またしても、あのナメクジが悪さをしていたらしい。
魚人のような姿をしていたモンスターたちは、ぴちぴちと跳ねるお魚さんへと姿を変えた。
「牛巻。大丈夫か⁉」
「ぜんぱーいぃぃ!!」
「おいバカ!? 人のシャツで涙を拭くな!」
丈二が地上に降りると、牛巻が抱き着いてきた。
よほど怖かったのだろう、顔から体液を垂れ流している。
牛巻の胸元にはごましおが居たため、丈二に抱きついたせいでむぎゅっと潰されていた。
苦しくはないようだが……いきなり潰されたせいか不満そうだ。
「まぁ、ケガは無いみたいだな……良かったよ」
牛巻は怖がっているが、ケガなどは無いようだ。
ほっとすると、別の部分が気になった。
なぜか牛巻の頭では猫耳がピコピコと動いていた。よく見ると、腰からは二又の尻尾がピンと伸びている。
どちらも本物の猫そっくりだ。ごましおのコスプレだろうか。
丈二はつい気になって、尻尾に手を伸ばした。
「なんだこれ、付け尻尾なんて売ってたのか?」
「ぴぃ⁉ ちょっと、どこ触ってるんですか⁉」
「みぃー!!」
尻尾を握った瞬間、牛巻はバッと飛び退いた。
顔を赤くして、キッと丈二を睨みつける。
なぜだが、ごましおまで怒っている。
「セクハラです!! 責任取ってください!!」
「みー!!」
「え、いや、なんで付け尻尾を触るだけで怒られるんだ……しかも、ごましおからも」
「あ、それはごましおちゃんと精霊を繋げて生やしている本物なので、二人で感覚を共有してるんです」
「なんだそ……れ?」
丈二が困惑していると、ラスクが歩いて来た。
しかし、こっちはこっちで驚きの姿である。衣服や顔にべったりと返り血を付けていた。手を出してくるタイプのヤンデレヒロインみたいだ。
だが、その返り血はラスクが戦った証拠。
元は野生のモンスターなのだから、自己防衛ぐらいは出来るだろうと丈二は思っていたが……意外と強いのかもしれないと認識を改めた。
あんまり怒らせないようにしよう。
「そ、そうだったのか。牛巻、すまなかった。俺が無神経だったよ」
「まぁ……触るときは事前に言ってください……」
牛巻は顔を赤くして、ぼそりと呟いた。
もっとも、丈二の周りには猫耳も尻尾も溢れているため、その希少価値は薄いのだが。
「みー!!」
さらに、牛巻の胸元から顔をだしたごましおは、『オヤツと交換だ!!』と一丁前に交換条件を出していた。
「あっ!? ふざけてる場合じゃなかった。先輩、モンスターはモングリアの方にも行ってるんです!!」
「ああ、それなら知ってるよ」
「は、早く対処しないと!?」
「いやいや、いくら俺でもモンスターを無視してこっちに来てないって……ほら」
丈二はモングリアの方角を指差す。
そちらにはモングリアへと道案内でもするように、点々と魚が落ちていた。
「来る途中に見つけたから、おはぎに倒して貰ったんだ」
「ぐるぅ!」
ドヤッと誇らしげな顔をしたおはぎが、パタパタと飛んできた。
丈二はおはぎをキャッチ。よしよしと頭を撫でると、おはぎはぐるぐると喉を鳴らした。
「流石はおはぎちゃんと先輩……ごましおの力を借りて『俺TUEEE!!』してたのが恥ずかしくなるチートぶりです……」
「ふっ、俺とおはぎは長い付き合いだからな。まだまだ、若い者には負けん!」
「ぐるぅ!」
キメ顔をする丈二とおはぎ。
しかし、直後に丈二は気まずそうに顔をそらして呟いた。
「まぁ、俺はおはぎの回復魔法の手伝いしてたくらいで、なにもしてないけど」
冗談めかしてドヤってみたが、あくまでも強いのはおはぎである。
あまり調子に乗ると痛い目を見そうなので、丈二は自重しておく。
ただ、それはそれとして、実際に丈二たちはモンスターの襲撃を収めた立役者でもある。
だがしかし、それにしては周囲から賞賛などは聞こえてこない。
むしろ、親戚の痛い子を見るような、生暖かい目で見られている気がする。
「なんか俺たち、変な目で見られてないか?」
「え……本当ですね?」
なにか、やらかしたのだろうか。
丈二たちが困惑していると、ラスクが苦笑いをした。
「あのぉ、丈二さんたちがお揃いの猫耳を付けてるので……いわゆるバカップルみたいです……」
バッと丈二は頭に手を乗せた。
そこにはサブレが選んだ、成人男性が付けるには痛々しい猫耳が残っていた。
完全に外し忘れていた。
「ぐおぉぉぉぉぉぉ!?」
その事実に気づいた丈二は、うめき声を上げながらうずくまった。
配信ならまだ冗談で済んでいたが、この往来で猫耳を付けていたのは痛すぎる。
精神に大ダメージ。猫耳は二度刺すのだ。
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