第167話 外し忘れ

 丈二たちがお化け屋敷に入り、巨大イカに驚いた後。

 ガラス張りの通路を抜けると、広いスペースに出た。


「オシャレなカフェっぽいけど、なんか白いのが落ちてるな」

「うにゃあ!? あれ、人骨じゃないですにゃ……?」

「うぇ、そうっぽいな……」


 そこは薄暗いカフェのような場所だった。

 パッと見はオシャレだが、床には人骨の山が築かれている。


 ちなみに、丈二たちが歩ける通路は列を整理するためのロープのようなもので仕切られている。カフェなんかでも使われていそうな物なので違和感は少ない。

 人骨っぽい小道具が置かれているスペースには、危ないから入るなという事だろう。


『すげぇ。骨が散らばってる以外は普通のカフェっぽいなぁ』

『オシャレなカフェ、談笑している陽キャたち、やたら長い商品名。怖い……』

『陰キャさんwww』

『分かる。陰キャにとってオシャレスペースはお化け屋敷より怖いよな……』


「また驚かされるかもしれないから、ゆっくり進むにゃ……」

「ぴぃ!」


 サブレときなこは体をぴったりとくっつけて慎重に進む。

 丈二もギュッとおはぎを抱きしめて後に続いた。

 ビービービー!! ビービービー!!


「うにゃ!? なんですにゃ!?」


 けたたましい警告音が響いた。

 同時にパッとカフェに明かりが点き、部屋の隅に置かれていた赤いランプがチカチカと光る。

 部屋が明るくなって気づいたが、ランプの下には非常ドアがあった。


「なんだ? これも演出か?」


 丈二が困惑していると声が聞こてくる。

 部屋のどこかにスピーカーが置かれているのだろう。


「現在、近隣のダンジョンからモンスターが流出したとの知らせが入りました。館内に居るお客様はスタッフの案内に従って、当施設のシェルターへと避難をお願いいたします。繰り返します――」


 どうやら、録音されたテープが流されているらしい。

 一言一句変わらない警告音性が繰り返される。


「これ、演出じゃないよな……?」


 モングリアの建てられている『ときわ市』は、十年ほど前にダンジョンから押し寄せたモンスターたちによって大きな被害を受けた場所だ。

 いくらお化け屋敷でも、こんな不謹慎な演出はしないだろう。


『え、なに、トラブル?』

『モンスターが流出ってマジ?』

『え、ジョージたち避難しないとヤバくない!?』


「うにゃあ。ど、どうしたら良いにゃ?」

「スタッフさんが来るみたいだから、とりあえず待機だな」


 丈二は困惑しているサブレの頭をポンと撫でた。

 きなこは状況が理解できないのか、キョロキョロとしている。

 おはぎは流石に場慣れしているらしく、落ち着いた様子だ。


 そうこうしていると、すぐに非常ドアがガチャリと開いた。

 入って来たのは中鼠だ。走って来たのか、ズレたメガネを直しながら丈二に駆け寄った。


「ま――丈二様、申し訳ありません。近くのダンジョンからモンスターが流出しているようですので、避難をお願いします」

「分かりました。他の子たちは大丈夫ですか?」

「はい。順次案内をしております」


 丈二は中鼠の案内に従って、お化け屋敷の外に出た。

 外に出ると、丈二は首をかしげた。

 待っているはずの、ぜんざいや寒天が居ない。先に避難したのだろうか。

 丈二が質問をしようと中鼠を見ると、なにやら耳に手を当てていた。どうやら、インカムで報告を受けているらしい。


「えっ⁉ ああ、わ、分かった……丈二様、申し訳ありません」

「どうしたんですか?」

「どうやら、ぜんざい様がモンスターの出現したダンジョンへと走り抜けていったと……さらに、それを女性のお連れ様が追いかけたそうです」


 なんと、ぜんざいはモンスターを感じてダンジョンへと向かったらしい。獲物の臭いでも嗅ぎつけたのだろうか。

 さらに、それを牛巻とラスクとごましお、おそらくは寒天も追いかけたのだろう。


「あの、こちらこそ勝手な行動をして申し訳ありません……そちらの避難手順があるのに……」

「いえいえ、お気になさらず……」


 しかし、ぜんざいたちが行ったのならば丈二も放ってはおけない。

 特に牛巻やごましおはモンスターと戦ったことなどないのだ。

 ぜんざいと寒天が付いていて、もしもの事はないだろうが心配だ。


「サブレはきなこと一緒に避難してくれ。あ、カメラも持ってな」

「了解にゃ!」


 丈二は宙に浮かんだカメラを操作して、サブレの近くに浮かばせる。


『こっからはサブレと一緒に避難配信か』

『ある意味、珍しい映像だよなぁ……』

『ジョージはどうするんだ?』


「俺はおはぎと一緒にぜんざいさんを迎えに行きます。おはぎ、よろしくな」

「ぐるぅ」


 丈二はおはぎに魔法を発動。

 巨大化したおはぎの背に乗って、空へと飛び立った。


『ジョージ、ちょっとカッコいいじゃん……』

『でも猫耳付けっぱだったぞwww』

『それは草』

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