第162話 カウシカケーキ

 丈二たちがお化け屋敷へと入る前。

 牛巻はモングリアに出展されたカフェのテラス席に座っていた。

 その頭には狐耳のカチューシャ。いつも着ているようなアニメ調のイラストが描かれたシャツから、モングリアで売られているタコのモンスターが描かれたシャツに着替えていた。


 手に持ったスマホでは、丈二たちの配信が映されている。

 スライムを模した座席が、サブレのハンドルさばきによってグルグルと回されている。

 それに耐える丈二が青い顔をして下を向いていた。

 気分が悪くなったが、楽しんでいるサブレたちを止めるわけにもいかず頑張って耐えているのだろう。


(相変わらず、先輩は変な所で意地を張るんですから)


 牛巻はくすりと笑うと、スマホをポケットにしまった。


「うん、配信の方は問題ないみたい」

「良かったです。ごましおちゃんが乱入していた時はどうなることかと思いました……」


 牛巻と向かい合って座っていたのはラスクだ。

 目の前のテーブルには、ちょこんとごましおが座っている。

 ふにふにとごましおの顔を揉んでいるが、当のごましおはジッとラスクを見上げていた。

 正確にはラスクの頭の上で揺れているうさぎ耳を見詰めている。

 キリっと見据えている瞳は、今にも飛び掛かりそうなハンターの目をしていた。 

 ラスクの頭で揺れる耳を、獲物だと思っているのだろう。


「それじゃあ、私たちも楽しもうか。まずは、このお店のスイーツでも!」

「はい。私もお供します!」


 そのままの流れで、牛巻たちはカフェのケーキを注文した。

 お茶を楽しみながら待つこと十数分。

 運ばれてきたのは白と黒のクリームが混ざり合ったケーキだ。

 上には枝のようなチョコレートも乗っている。


「うわぁ、キレイですね。食べるのがもったいないです……」

「写真を撮って、おはぎチャンネルのSNSに上げておこっか」


 料理の写真を撮って、SNSに上げるのは牛巻たちの担当である。

 丈二たちでは料理が運ばれてきても、すぐにがっついて食べてしまう。

 撮れる写真は綺麗に食べつくされた真っ白なお皿だけだろう。


「みぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

「うわわ、怒ってます」

「あちゃあ、こっちにも食いしん坊が居たね」


 ごましおは運ばれてきたケーキを見ると、長い長い鳴き声を上げた。

 小さな体のドコにそこまでの空気が入っていたのかと不思議に思うほどだ。

 おそらく『自分たちだけ美味しいものを食べるな!!』と怒っているのだろう。


「はいはい、君にはこれをあげるからね」


 牛巻は店員から小皿を貰うと、そこにペースト状のオヤツを盛りつけた。

 ごましおに差し出すと、ぺろぺろと満足そうに舐めだす。


「これでよし、私たちも食べよっか」

「はい!」


 食いしん坊を大人しくさせると、牛巻たちもフォークを手に取った。

 ケーキを口に運ぶと、クリームがふわりと溶けた。


「ふわー、おいしいです……」

「カウシカから取れた牛乳を使ってるらしいよ。そのまま飲んでも濃厚だけど、生クリームにするともっと凄いね」

「ほえぇ……もしかして、上に乗ってる枝はカウシカさんたちの角をイメージしてるんでしょうか?」

「あ、そうかもしれないね!」


 キャッキャとケーキを楽しむ二人。

 オヤツを食べ終えたごましおは、ぺろぺろと顔を洗っていた。

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