第161話 海の底から
その後もアトラクションを楽しんだ丈二たち。
貸し切りのおかげもあって、次々とアトラクションを踏破して行った。
そしてお昼を前に、とある場所へと足を運んだ。
「ここがモングリアのお化け屋敷か……」
丈二たちの前にそびえるのはコンクリート製の大きな箱。
外壁にはイルカの絵が描かれているようだが、塗装が剥がれて無残な姿を晒している。まるでイルカのゾンビだ。
入り口の上には、『門愚理亜水族館』と書かれた錆びきった看板が飾られていた。
『廃水族館?』
『これがお化け屋敷なのかw』
『暴走族みたいな名前の水族館だ……』
『暴走族www』
ドアの外された入り口を通り抜ける。内装は薄汚れているが、キレイな赤いロープで通路が作られていた。そのロープを見ると、やはりお化け屋敷なのだと安心できる。
「呪われた水族館へようこそ、探索者様」
「うぉ、びっくりした……」
入り口のすぐ脇には、カウンターが設置されていた。
なんとも明かりの当たりが悪い。かろうじてカウンターに人が立っていることが見える。
声からすると男性だろう、真っ黒なレインコートを着ている。フードを深く被っているため、その表情は見えない。
「この水族館には邪悪な魔物が住み着いております。探索者様には、その魔物の正体を暴いていただきたい」
「わ、分かりました」
「それでは、どうぞ奥へ。無事にお戻りになることを願っております」
レインコート男の案内に従って、丈二たちは奥へと進む。
例のごとく、大きさ的に無理があるのでぜんざいと寒天は外で待機だ。
「うにゃあ、これがお化け屋敷ですかにゃ……」
「ぴぃ……」
サブレはキョロキョロと辺りを見回しながら、ヒシっときなこに寄り添っていた。
丈二もお化け屋敷は数えるほどしか入ったことが無いのでドキドキだ。
おはぎを抱きしめながら、ゆっくりと進む。
「だけど、まだ怖い感じはしないな……むしろ幻想的だ」
丈二たちは廊下を進む。
両脇には小さな水槽がずらりと並び、足元から伸びる淡い光によって幻想的に輝いていた。
「……水槽に入ってるお魚は不気味ですにゃ」
「深海魚がモデルなんだろうな」
サブレがぴょんぴょんと跳びはねながら水槽を覗いた。
水槽から奇妙な魚たちが丈二たちを見詰めている。
宇宙人のように巨大な目の魚。バックリと開いた口に針山のように鋭い歯が並んだ魚。デロっとした体のスライムのような魚。
しかし魚たちはピクリとも動かない。人形なのだろう。
『おお、見たことあるような魚も多い』
『普通に水族館やんwww』
『いやいや、動いてないから人形だろ?』
奇妙な深海魚たちに見守られながら、丈二たちは廊下を抜けた。
すると次に見えてきたのはガラスの通路。
そこに足を踏み入れるとサブレは驚いたようにキョロキョロと辺りを見回した。
「ひ、広いにゃ……巨大水槽ですにゃ!」
あたりを見回すと一面が水中だ。
そのガラスの通路は巨大な水槽に通された物だった。
しかし水槽に魚は泳いでいない。ただ薄暗い闇だけが続いている。
まるで海底に放り出されたような不安感が丈二を襲った。
『空っぽな巨大水槽って怖いな……』
『見てると吸い込まれそうだ』
『こんなクソデカ水槽どうやって入ってるんだ?』
『ほんそれ、こんなデカい水槽が入るような大きさじゃ無かったよね?』
『たぶんデカい画面設置してるんじゃね?』
コメントを見た丈二は、水槽のガラスにジッと目を近づける。
よく目を凝らすと画面のマス目が見える。
コメントで言われたように、本物の水槽ではなく映し出された映像のようだ。
(サブレたちには言わないでおくか、雰囲気壊しちゃうからな)
サブレたちは本当に巨大水槽に囲まれていると思っているらしい。
キョロキョロと不安そうにあたりを見回していた。
「うにゃ!? あれ、なんですにゃ!?」
「どうした?」
サブレが水底を指した。
水槽の底には海のようにサラサラとした砂が貯まっている。
そこに二つの光がランランと輝いているのが見えた。
ゆらゆらと動く二つの光が、少しづつ丈二たちに近づいてくる。
同時に、それの正体が見えてきた。
「うにゃあ!? デカいタコですにゃあ!?」
海底から現れたのは巨大なタコ――クラーケンだろう。
長い触手をうねらせて丈二たちに迫る。
『うおぉ、迫力あるなぁ』
『こんな所でクラーケンに襲われたら漏れちゃうで……』
クラーケンは丈二たちが歩くガラスの通路に掴みかかって来た。
ピシッ! ピシピシ!!
砕ける音と共に、通路に亀裂が走った。今にも崩れそうな音が鳴り響く。
「マズいにゃ! 早く逃げるにゃあ!!」
「ぴぃ!!」
「走って転ぶんじゃないぞ!!」
通路を本物だと思っているサブレときなこは、タコに怯えて走り出した。
丈二もその後を小走りで追いかけた。
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