第160話 スライムストライク!
「うにゃ! アレに乗りましょうにゃ!」
サブレが指した先には、コーヒーカップと呼ばれるようなタイプの乗り物だ。
カップを模した座席に座って、真ん中のハンドルを回すとぐるんぐるん回転するアレである。
だが、モングリアのコーヒーカップは乗り物のデザインが凝っていた。
仕組みは同じらしいが、座席はスライムを模したデザインとなっている。
寒天にもそっくりだ。
「あれなら、おはぎたちも乗れるし良いな」
モングリアにはジェットコースターなどの乗り物もあるのだが、当然ながら高さ制限が付いている。
おはぎやきなこはもちろん、サブレも小さいため乗れない物も少なくない。
丈二たちがコーヒーカップに向かうと、周りを歩いていた犬猫族たちも集まって来た。
丈二たちが乗ると気づいて、自分たちもと来たらしい。
乗客が集まると、スタッフが入場ゲートを開いてくれた。
「探索者の皆様、スライムストライクへようこそ! 各スライムにご着席ください!」
『スライムストライクって乗り物なのかぁ』
『たぶんコーヒーカップだよね。デザイン凝ってて良いね!』
『潰れかけの遊園地かと思ったら、内装もスタッフさんも質が高いな……』
にこにこと笑顔を弾かせるスタッフに案内される丈二たち。
『探索者』はモングリアでのお客さんの呼び方だ。モンスターがウヨウヨしているダンジョンにやって来た探索者たちという設定であるらしい。
丈二たちはスライムを模した座席に座る。
流石にぜんざいは乗れないので、外から見守ってくれていた。
「……寒天、どうした?」
ぷるん。
寒天がジッとスライムを模した座席の前に佇んだ。
仲間だと思っているのだろうか、見た目はそっくりである。
(いや、寒天は賢いから勘違いすることもないだろうけど……)
寒天は数秒ほど座席と見つめあうと、開いている座席に乗り込んだ。
寒天は大きいので一人乗りだ。スライムのスライム乗せだ。もりもりスライム。
「それでは、スライムに取り込まれてしまった探索者の皆様は、脱出するために真ん中のハンドルを動かして抵抗してください!」
そういった設定であるらしい。
スタッフの掛け声と共に、ゆっくりとスライムの乗り物たちが動き出す。
「動かしますにゃ!」
「ちょ、そんなに勢いよく回すと――!」
サブレは勢いよくハンドルを掴むと、ぐるんと回した。
それと連動してグルグルと周りだすスライム。
「ぐるぅ!」
「ぴぃ!」
「うおぉぉ!? 目が回りますにゃあぁぁぁ!?」
周るスライムにおはぎたちは大興奮。
ゆらゆらと体を揺らしながら、キョロキョロと周りを見渡している。
「うぉ、きっつい……」
一方で回転がキツイおっさんが一名。いきなり目を回し始めていた。
子供のころは平気だったはずなのに、三半規管も加齢によって衰え始めていたらしい。
『頑張れジョージwww』
『大人になってから乗ると意外ときついんだよなぁ……』
『サブレちゃん回しすぎwww』
「うにゃ? これ上にも伸びますにゃ!」
「うえぇ!?」
サブレが上に持ち上げると、ハンドルがゆっくりと伸びた。
同時にスライムも上に伸びあがり、丈二たちの目線が高くなる。
「あぁ、これは経験済みだな……」
初めておはぎダンジョンに入ったとき、周りを見渡すために寒天に持ち上げて貰ったことがある。
スライムが縦に伸びるのは、意外と一般的な概念なのだろうか。
『上に伸びるコーヒーカップは珍しいなwww』
『子供は喜びそうなぁwww』
『スライム感が増してて良いアイディアだなぁ』
「ぐる!」
「おぉ、ぜんざいさんが下に見えますにゃ!」
「ぴぃぴぃ!」
持ち上がったスライムはぜんざいよりも目線が高い。
ぜんざいを見下ろせるような高さに上がって、サブレたちは興奮しているらしい。
ぜんざいに向かってぶんぶんと手を振っていた。
「がう」
ぜんざいは『見ているぞ』と軽く返事をすると、ポリポリと後ろ足で頭をかいていた。
興奮する孫を見守るおじいちゃんのようだ。
『ぜんざいさんクールだなぁwww』
『飯と風呂が関わらなければクールなイケおじだからな!!』
『なお、はしゃいでる時のほうが多い模様』
「伸びるのも面白いにゃ!」
サブレたちは上下の動きも気に入ったのが、ぐるぐるとハンドルを回しながら上げ下げも繰り返す。
回転だけでもきついのに、上下運動まで加わったことによって丈二の三半規管が悲鳴を上げた。
限界である。
「もう無理だ。下を向こう……」
自分も外から見守っていれば良かったと、少し後悔した丈二であった。
☆あとがき
子供のころは楽しかったマ〇オギャラクシー。
最近プレイしたら目が回ってキツかったです。
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