第158話 モングリア
「いやぁ、やっと着いたなぁ……!」
バスから降りた丈二が体を伸ばすと、ゴキゴキと間接から音が鳴った。
片道三時間。なかなかの長旅だった。
目の前に広がるのは大きな遊園地。ここが『モングリア』だ。
丈二たちはモングリアの側に広がる駐車場へと降りていた。
「がう!」
「あ、ぜんざいさんもお疲れ様です」
バスの隣からヌッと顔を出したのはぜんざいだ。
ぜんざいはその巨体からバスには乗れないため、ずっとバスの後ろを付いて来ていた。
それでも疲れている様子がないのは流石である。
それはそれとして、長距離を走ったご褒美が欲しいらしい。『腹が減った』と、丈二を見つめる。
丈二がサービスエリアで購入した塩チョコを投げると、ぱくりと器用にキャッチして食べていた。
塩キャラメルをチョコレートでコーティングしたお菓子だ。丈二も食べてみたが、ほどよい塩味が甘さを引き立てて美味しかった。
「風がしょっぱいにゃ!」
後から降りてきたサブレが叫んだ。
たしかに、モングリアから吹く風には潮の匂いが漂っている。
「すぐ隣が海らしいですよ」
サブレに続いて降りてきたのはラスクだ。
その腕にはごましおが抱かれている。
ごましおにとっては初めての遠出だ。見慣れない景色に驚いているのか、目を真ん丸にしてキョロキョロと見回している。
その後もゾロゾロとバスから降りる丈二たち一行。
そこにメガネをかけた男性が走り寄って来た。黄色の明るいジャケットを着ている。ジャケットの胸元に付いたロゴを見るに、モングリアの従業員らしい。
「遠いところお越しいただきありがとうございます。私、当園の社長を務めさせていただいております。『
中鼠と名乗った男性は、ぺこぺこと頭を下げながら名刺を差し出してきた。
なんだか、落語家みたいな名前である。
「本日はご招待いただきありがとうございます。牧瀬丈二です」
中鼠に合わせて、丈二も名刺を差し出す。
しばしの間、二人はぺこぺこと頭を下げあいながら挨拶をしていた。
「ジャパニーズサラリーマンにゃ!」
「人間社会って大変そうですよね……」
モンスターたちから珍しい物を見るような目で見られてしまった。
しかし、これが日本固有種サラリーマンの生態であるので仕方がない。
挨拶が終わると、中鼠はモングリアに誘うように手を向けた。
「ささっ、早速ですがお入りください」
「分かりました。みんな、もう行けるな?」
「大丈夫ですにゃ!」
中鼠の案内に従って、丈二たちはモングリアへと向かった。
入り口には冒険心をくすぐるような音楽が流れている。ゲートの真上には巨大なイカ形モンスターの装飾が作られていた。
クラーケンだろうか。
今にも襲い掛かって来そうな迫力だ。
ゲートを通って園内に入る丈二たち。
中に他の来園客は居ない。
本日は丈二たちの貸し切りだ……もっとも、そもそも来園客が少なくて、もとから貸し切りのような状態らしいのだが。
「今回は牧瀬様からお話が来て助かりました。モングリアは廃園目前……近く、廃園について県議会で議論されると言われていたほどなんです」
「それは……失礼ですが崖っぷちですね……」
「いや、お恥ずかしい話です。前任の社長などはキャリアが傷つくのを恐れて、私に社長を任せて逃げ出してしまったほどでして……」
「うわぁ……」
中鼠は社長らしくない人だと思っていたが、どうやら前任の社長から押し付けられた立場だったらしい。
同じように『社長』に苦しめられた社畜として、丈二は同情する。
「しかし、私は子供のころからモングリアには遊びに来ていたので思い入れがあります。せっかく社長になったからには、なんとか立て直したいのです……ぜひとも、牧瀬様の力をお貸しいただきたい」
「分かりました。私たちに出来ることならご協力します」
「ありがとうございます!」
丈二たちだけの力でモングリアを立て直せるとは思えない。
だが、こうして園内を見渡してみると、思っていたよりも遊園地としての完成度が高い。
あちこちにモンスターをイメージした彫像が飾られていて、テーマパークとして独特な雰囲気が出せている。
少し魅力を伝えるだけでも、来園客は増えるはずだ。
「うにゃー! 遊園地って凄いですにゃぁ!?」
「楽しみです……!」
「みー!」
遊園地に興奮しているサブレやラスクたちを撮影するだけでも、来場者は増えるのかもしれない。
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