第154話 確保!!

「ほわぁぁぁぁ!!」

「ちょ、ちょっと、待ってくれ……」


 暗闇を飛び回る二つの火の玉。それを追いかける隊長。

 ぜぇぜぇと息を切らして隊長に食らいついていた丈二だが、限界を迎えてどさりと座り込んだ。


「も、もう無理だ……うぉ⁉」


 そこに追いついてきた寒天が、体から触手を伸ばして丈二の体を持ち上げる。

 寒天はうにょうにょと体を変形させて、バイクのような形に変わると座席部分に丈二を乗せた。


「え、もしかして走れるのか!?」


 思わずハンドルを掴む丈二。その瞬間、寒天バイクが走り出した。

 流石に本物のバイクほど早くはないようだ。全力でこいでいる自転車くらいの早さだろうか。


「ほわぁ……?」

「ほわほわぁ!」


 ハンドルの横部分にはマンドラゴラたちが座れるような小さな座席が用意されていた。

 頬を撫でる風に、ようやく目を覚ましたねぼすけは『なんだ?』とばかりに当たりを見回す。

 こわがりは楽しんでいるらしく、遊園地のアトラクションに乗る子供のようにはしゃいでいた。


「よし、このまま行けば追いつく!」


 寒天バイクは少しずつ隊長に近づく。

 このまま隊長を拾って、火の玉を追いかければ捕まえられるはずだ。

 丈二はそう思っていたのだが――


「ほわぁ!?」

「消えた!?」


 フッと火の玉は消えてしまう。

 困惑したように火の玉が消えた場所に走り寄る隊長。

 丈二も寒天から降りると、隊長に走り寄った。


「ほわぁ……?」

「消えちゃったな……」


 隊長は体を傾けて不思議そうにしている。

 丈二は火の玉が消えたあたりに懐中電灯を向けるが、なにも居ない。

 完全に見失ってしまった。


「まんまと逃げられたのか……」

「ほわぁ……!!」

「……ほわぁ?」


 隊長が悔しがっていると、寒天から降りたねぼすけが近寄って来た。

 そして火の玉が消えたあたりと見ると、地面に短い手を伸ばした。


「なんだそれ、動物の毛か?」


 ねぼすけの手につままれていたのは灰色の毛だ。

 短いがふわふわとしている。

 まるで、子猫の毛のようだ。


「そういえば、すぐ近くに猫族の宿舎があるな……」


 その後、丈二たちは猫族の宿舎に向かった。

 子猫たちの保育所に入り、部屋の電気を付けると子猫たちが『なんだなんだ?』と顔を出す。

 眠そうに目をぱちぱちさせているが、好奇心には勝てないのだろう。

 丈二が窓際に目を向けると、思った通りだった。


「やっぱり、窓が開いてるな」


 夏の暑さを和らげるために、窓は全開にされている。

 これなら猫は出入り自由である。

 だが、子猫たちは出入りできない。まだまだ幼い子猫たちでは、窓に届くほどのジャンプはとても無理だからだ――ただ一匹を覗いて。


「ほら、隠れてないで出て来るんだ」

「みー?」


 丈二は子猫たちの寝床の奥で丸まっていた猫又を掴み取った。

 お腹を見るように仰向けに持ち上げると、猫又は『なにー?』ととぼけるように首をかしげている。

 しかし、その肉球は土で汚れていた。

 普通の子猫たちは部屋から出ることは不可能だが、成長の早い猫又なら難なく窓から飛び出せる。


「火の玉の正体はお前だろう?」

「みぃ!?」


 丈二がこちょこちょと猫又のお腹をくすぐると、猫又はビックリしたように二本の尻尾を伸ばした。

 そこにボッと青白い炎が灯る。

 それは丈二たちが追いかけていた、火の玉そのままだ。


「ほわぁ!!」


 隊長が猫又を指して『犯人確保!!』と叫んだ。

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