第153話 スイカ泥棒?

 その日の夜。

 丈二はマンドラゴラたちの畑が見える茂みに身を潜めていた。

 スイカ泥棒の犯人を捕まえるための張り込みだ。


「とは言っても、今晩も出るかは分からないけどなぁ」

「ほわぁ……!」


 隊長は『きっと来る……!』と畑を睨む。

 特に根拠は無さそうだ。大根の勘なのだろう。


「悪いな。こんな時間に手伝って貰って」


 丈二が後ろを振り向くと、そこには水色のゼリーのような球体――寒天だ。

 寒天はぷるんと体を震わせる。『気にしないで』と言ってるようだ。


 すでにおはぎはお眠の時間。ぜんざいもきなこを寝かしつけているため手伝いには来れない。

 結果として寒天に張り込みを手伝って貰っていた。


「しっかし、ジッと待ってると体が痛くなってくるな……」


 当然ながら椅子など用意していない。

 地面にしゃがんでいると体が痛くなってくる。


「うぉ⁉ ――なんだ。寒天か」


 丈二がぼやくと、ひんやりとした触手が丈二の体に巻き付いた。

 寒天がゼリー状の体から伸ばしたものだ。そのまま丈二を持ち上げると、寒天は自身の体の上に丈二を乗せる。

 寒天の体はビーズクッションのように形を変えて、丈二の体にフィットする。

 しかも、ひんやりとしていて気持ちが良い。夏の蒸し暑さを和らげてくれる。


「ありがとうな――ちょっと眠くなってくるけど」

「ほわ!」


 隊長が『寝るなよ!』と丈二を睨んだ。

 しかし、こわがりとねぼすけは寒天の体によじ登ると、丈二と同じように横になった。

 ねぼすけなどは完全に眠るつもりだ。横になった瞬間に『ほわーほわー』と寝息を立て始める。


「ほわぁ……!!」


 隊長はやる気のない丈二たちに怒り心頭のようだ。

 噴火寸前の火山のように、ぷるぷると短い手足を震わせる。


「ま、まぁまぁ。夜は長いんだからのんびり――あれは?」


 丈二が隊長を鎮めようとした時だった。

 畑の方に二つの光が見えた。

 もしかすると、犬猫族の誰かが手伝いに来たのだろうか。

 しかし、目を凝らすとそれは懐中電灯などの光ではない。


「ひ、火の玉が浮いてる?」


 二つの青白い炎がゆらゆらと宙に浮いている。

 炎の奥に目を向けても、そこには炎を持っているような影は見えない。


「ほわー……」

「ほ、ほわぁ!?」

「ほわぁーほわぁー」


 こわがりはギュッと丈二の腕にしがみつき、ぷるぷると震えた。

 隊長も驚いたらしく、ギョッとしたように火の玉を見つめる。

 一方でねぼすけは寝息を立てていた。


 ゆらゆらと宙に揺れる火の玉。しかし、弾むように跳びはねてマンドラゴラたちの畑へと侵入した。

 もしかすると、アレがスイカ泥棒の犯人なのかもしれない。


「ほわぁぁぁぁ!!」

「あ、ちょっと待て!?」


 隊長もそれに気づいたのか、『こらぁぁぁ!!』と雄たけびを上げて走り出した。

 丈二も慌てて立ち上がり隊長を追いかける。

 後ろから寒天に乗ったこわがりとねぼすけも付いて来た。


 火の玉は驚いたように、ぼわっと炎の勢いを強くする。

 走り寄る丈二たちを見つけると、ぴゅーと飛び去って行く。


「ほわぁぁぁ!!」


 隊長が『待てぇぇぇぇぇぇ!!』と叫びながら追いかける。

 短い手足でなんとも素早いものだ。

 丈二もひぃひぃと息を切らしながら、隊長を追いかけた。

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