第149話 大ぶりスイカ失踪事件

「ほわぁぁぁぁ!!??」

「な、なんだ?」

「ぐるぅ?」


 涼し気な風が頬を撫でる朝方。

 丈二とおはぎがおはぎダンジョンを散歩していると、甲高い叫び声が響いた。


「マンドラゴラの声だよな……様子を見に行くか」

「ぐるぅ!」


 尋常ではない声だった。

 なにか事件が起こったのかと丈二たちは走り出す。

 あぜ道を走ると、マンドラゴラたちが見えてきた。

 マンドラゴラの一匹、おそらくは隊長が畑に向かって膝をついてうなだれている。


「どうした? なにかあったのか?」

「ほわぁ……」


 こわがりとねぼすけが、困ったように丈二を見上げる。

 彼らは畑に向かって視線を動かした。丈二も続けて畑を見ると、首をかしげた。


「……あれ? 隊長が大事に育ててるスイカが無くなってるな?」


 まだ春の涼しさが残っていたころに、丈二たちは畑にスイカの種を蒔いていた。

 そのスイカたちは夏の暑さが盛り上がると共に成長を続けて、そろそろ収穫の時期が近付いていた。


 そんなスイカたちの中でも、一つだけ特に大ぶりなスイカが育っていた。

 そのスイカは隊長が手塩にかけて育てている一級品らしく、限界まで大きく育ててやろうと苦心していたらしい。

 丈二たちに対しても、そのスイカに関しては『収穫禁止令』が出ていたほどだ。


 その大ぶりスイカだけが、畑からすっぽりと無くなっている。

 

「ほわぁぁぁぁぁぁ!!」


 ごろんごろん。駄々をこねるように地面を転がる隊長。

 その様子からすると、自分で収穫したわけではないらしい。


「ほわぁ」

「ほわほわぁ」

「え、朝起きて見回りをしてたら無くなってたのか?」


 隊長の代わりにこわがりとねぼすけが説明をしてくれた。

 いつものように畑で目を覚ましたマンドラゴラたち。日課となっている畑のパトロールをしていると、大ぶりスイカが無くなっていたことに気づいたらしい。


「このパターンなら経験したことがあるぞ……お前たちマンドラゴラが生まれた時に同じような状況だったんだ……」


 丈二が初めて家庭菜園に挑戦した時も同じ状況だった。

 やたらと育ちの早い三本の大根が、朝起きたら消えていたのだ。

 その大根たちは、こうして丈二の目の前で元気にマンドラゴラとして生きている。

 今回も同じパターンでは無いのだろうか。


「ほわほわ」

「え、スイカのマンドラゴラが生まれたわけじゃないのか?」


 丈二としては、もはや確定パターンだと思っていたのだが違うらしい。

 こわがりがブンブンと首を――体を振った。

 スイカのマンドラゴラが生まれたわけではないらしい。

 違うと断定している理由は分からないが、マンドラゴラとして何か分かるものがあるのだろう。


「じゃあ、どこにスイカは消えたんだろうな……誰かが食べたとかか?」

「ほわぁ!?」


 隊長はガバっと体を起こすと、丈二に迫った。

 ぽかぽかと短い手を振り上げて、丈二の足を叩く。

 ちなみに、まったく痛くない。


「いやいや、俺が食べたわけじゃないぞ?」

「ほわぁ!?」

「ぐるぅ?」


 丈二に違うと言われた隊長は、ぐるんとおはぎを見る。

 しかし、おはぎも自分じゃないとばかりに首を振った。


「ほわぁ……!」


 隊長はよじよじと丈二の服をよじ登ると、頭の上に鎮座。

 こわがりとねぼすけもそれに続いて、丈二の両肩へと登る。

 先ほどまで潜って寝ていたせいか、土の匂いが鼻をくすぐった。


「ほわぁ!」


 短い手で前を指さす隊長。

 どうやら、大ぶりスイカを食べた犯人を捜すつもりらしい。

 丈二は否応なくその手伝いが命じられているようだ。


「……仕方がない。手伝うか」


 丈二は三本の大根を体に乗せて、『大ぶりスイカ失踪事件』の調査を始めることとなった。

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