第148話 もふもふ経済

「……失礼しました」


 役人は顔を赤くしながら、スーツをエチケットブラシで撫でる。

 スーツにこびりついた毛の量からも、存分に堪能したことが分かるだろう。


「いえいえ、ギルドの方々にはお世話になってますから、またいつでも来てください」

「……はい」


 などと丈二たちがやり取りをしていると、おはぎダンジョンから人影が出てきた。


「お昼ご飯ですにゃあ!」

「疲れましたぁ」


 出てきたのはサブレとラスク。

 どうやら、ダンジョン内の食堂ではなく、こちらでご飯を食べるためにやって来たらしい。

 サブレは、役人の顔を見ると首をかしげた。


「うにゃ? いつもの人じゃないですにゃ。サブレです。初めましてにゃあ」

「あ、こんにちは……」


 稲毛は猫族たちと何度か交流しているため、サブレも見知った顔だ。

 違う人が来ているため不思議そうにしながらも、役人に手を差し出して握手を求める。

 一方のラスクは控えめに挨拶をしながら、そっと丈二の背中に隠れた。


「サブレ様ですね。お話は聞いております。とても頭の良い猫族だと」

「うにゃあ。照れるにゃあ!」


 役人がそっとサブレの手を握る。

 褒められたサブレは開いた手で、顔をくしくしと洗いながら喜んでいた。


「そうだにゃ。ギルドの人に遊園地のことはお願いできないのかにゃ?」

「遊園地?」

「ああ、それは――」


 思いついたように口にしたサブレ。

 丈二が猫族たちの勉強のために『お化け屋敷』に行きたいことを説明する。


「当たり前ですけど、ギルドの方ではどうにもなりませんよね?」


 ギルドの仕事は、あくまでもダンジョンやモンスターに関わることだ。

 まさか、『遊園地に行きたい』なんてお願いを叶えて貰えるとも思えない。

 もちろん断られるだろうと丈二は思っていたのだが。


「……確約はできませんが、手は尽くしてみましょう」

「本当にゃ!?」


 役人からは予想外の返答が貰えた。

 ギルドでなんとかなる問題なのだろうか。


「別部署の者に頼めば遊園地側とコンタクトは取れるかもしれません。そこから犬猫族たちを受け入れて貰えるかは、牧瀬様の交渉次第となると思われますが」

「それだけでもありがたいです。ぜひ、よろしくお願いします!」

「お任せください。ぜんざい様のお腹分は尽力いたします」


 ぜんざいのモフモフによる利益が出て来ていた。

 しかし、当のぜんざいはどこ吹く風。

 大口を開けて欠伸をしながら、ぼんやりと丈二たちを眺めていた。

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