第150話 第一容疑者

 消えたスイカの行方を捜し始めた丈二たち。

 しかし、丈二たちは起きて散歩をしていた途中だ。朝ごはんすらまだである。

 とりあえず丈二家に戻った丈二たちは、朝ごはんを食べていた。


「ほわぁ……」

「ほわほわ」

「ほわぁ」


 不服そうにしている隊長を他の二匹がいさめる。

 隊長はさっさと捜査に入りたいようだが、腹が減っては戦が出来ぬ。

 朝ごはんくらいは許して欲しい。


「そんなわけで、朝起きたらスイカが無くなってたみたいなんだよ」


 丈二は牛巻たちに事情を説明すると味噌汁をすすった。

 牛巻が出汁からとった味噌汁だ。朝の味噌汁はやたらと美味しい。最高である。


「くっ付いて消えちゃったんじゃ……」


 狐の着ぐるみパジャマを着たラスクが、寝ぼけ眼で呟いた。

 ちなみに着ぐるみパジャマは牛巻が用意した物だ。

 どうやら、まだ夢から覚め切っていないらしい。昨日も夜遅くまで牛巻とゲームをやっていたようだ。


「いや、ゲームじゃないんだからスイカはくっ付いても消えないからな」

「ほぇ」


 ラスクは気の抜けた声を口から漏らすと、こくりと首を縦に振った。

 たぶん、よく分かっていない。

 左手に茶碗を持ちながら、虚空を掴んだ箸を口へと運んでモグモグとしている。


「……まぁ、第一容疑者は決まってますよね」


 そんな寝ぼけた狐は放っておいて、牛巻は口を開いた。

 その目線はかっちりと部屋の中央を見詰めている。


「がうがう」


 そこに居たのはぜんざいだ。

 もぐもぐと山盛りの肉が盛られたどんぶりに口を突っ込んでいる。

 ご飯の上に肉を持った肉丼だ。朝からなんとも元気なことである。

 ぜんざいはおはぎダンジョンでもっとも食欲が旺盛なご老体だ。スイカの一つくらいはペロリと食べてしまえる。

 おはぎダンジョンに居る者なら、とりあえずぜんざいを疑うだろう。


「……がう?」


 部屋中の視線を集めていることに気づくと、『なんだ?』と首をかしげた。


「ほわほわぁ!?」

「がう」


 『お前が食べたのか!?』とぜんざいに詰め寄る隊長。

 しかしぜんざいは『知らん』とぶっきらぼうに答えると、食事に戻ってしまった。


「いや、ぜんざいさんじゃないと思うぞ? 昨日の夜も同じ部屋で寝てたし、ぜんざいさんの巨体が動いたら俺やおはぎが気づくと思うんだよなぁ」

「それじゃあ、ぜんざいさんは違いますか……あ、じゃあ同じ理由でラスクちゃんも違いますね。昨日の夜は私の抱き枕になって貰ってましたから!」


 ラスクにも部屋を上げているのだが、なんだかんだ牛巻が使っている編集部屋で寝ていることも多い。

 昨日も牛巻と寝ていたようなので、ラスクも容疑者から外れるだろう。

 もっとも、小食なラスクが巨大なスイカを盗む理由もないのだが。


「となると、やっぱり怪しいのはおはぎダンジョンに居た誰かだな……」

「ほわぁ……!!」


 まだ見ぬ犯人に闘志を燃やす隊長。

 これは見つかった犯人は、嫌になるほどどやされるに違いないだろう。


「ほわぁ……」


 マンドラゴラのような声を漏らしたラスク。

 なぜか、さくらんぼを掴んで空中から落とすという奇行をしていた。


「ラスク、さくらんぼをくっ付けてもイチゴにはならないぞ」

「いちごが食べたいんですかね? 後でイチゴ味のアイスでも買ってきてあげましょうか」

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