第144話 コンセプト

 ラスクがやって来てから数日が経過した。

 ラスクはおはぎダンジョンでの生活にも慣れてきたようだ。

 いずれは何らかの仕事をしてもらうつもりだが、現在の彼女の役目は肝試し大会の主演。

 その勉強のためにホラー映画の観賞を頑張っている。

 現在も丈二家の居間で観賞中だ。


「きゅーん!!」

「ラスクちゃん頑張って! これが終わったらおやつを用意するから!」


 だが、ラスクは単純に怖い映画が苦手らしい。

 狐の姿に戻ったラスクは、牛巻にすがり付いて画面から目を離している。

 まずはホラーに耐性を付けるところから頑張らなくてはいけないようだ。


 丈二は二人の様子を眺めがら、膝の上に乗ったおはぎを撫でる。

 外はギラギラと太陽が輝いているが、庭に水をまいたおかげか随分と涼しい。心地よい風が丈二たちを撫でる。

 縁側ではぜんざいがお腹を上にして眠っていた。


「丈二さん。肝試し大会の計画についてご相談にゃ!」


 おはぎダンジョンからサブレが飛び出す。

 サブレはぜんざいの上を飛び越えて丈二の元に着地。

 その手にはタブレット端末。見せてきた画面には白黒の簡単な絵が描かれていた。


「お、どんなコンセプトにするか決まったのか?」

「そうですにゃ!」


 主演女優をラスクに任せると決めたは良いものの、具体的にどのようなコンセプトの肝試し大会とするのかは決まっていなかった。


 王道としては幽霊が脅かしてくるものが良いだろう。

 あるいは特殊な村や集落の因習をテーマとして、異文化の人への恐怖を掻き立てるのも良い。

 変わり種としては、コズミックホラーのように強大な宇宙的存在を背景とするものもある。


 もっとも、あまり捻ったものにしてもお客さんに理解してもらえなければ意味が無い。

 シンプルに幽霊が脅かしてくる物とする予定だが、それにしたって『なぜ幽霊として化けているのか』という背景情報は欲しくなる。


 サブレはそれらをまとめたコンセプトを考えて来てくれたのだ。


「メインの舞台はおはぎダンジョンの森にするにゃ。その奥に廃屋風の家を建てて、お客さんたちはそこに肝試しに行く人たちと設定するにゃ」


 森といえばマタンゴたちが住み着いている場所だ。

 以前はマタンゴたちによってキノコだらけになったが、現在では彼らとの交渉によってキノコの数は抑えられている。

 ちょっとキノコが多いだけの普通の森へと変わった。

 夜になれば雰囲気が出るし、肝試しの場所としては良い感じだ。


「あとラストの脅かし役は若い女性の幽霊にするにゃ。事故死した旦那さんを生き返らせるために、野良犬や野良猫を生贄に怪しい儀式を繰り返していたら、おかしな物を呼び出してしまって気が狂って自殺した設定にゃ」

「なるほど、生贄にされた犬猫の怨霊としてサブレたちが活躍するのか」

「そうですにゃ!」


 なかなか分かりやすい設定だ。

 これならお客さんにも、すんなり理解してもらえるだろう。


「それとお客さんには、肝試しに行く前に動画を見てもらう予定にゃ。以前に肝試しをした人が撮影したビデオで、設定の理解と雰囲気作りを試みるにゃ」

「動画撮影は俺たちの強みだしな。良いアイディアだと思う。その方向で行こう」

「了解にゃ!」


 などと丈二たちが話している間に、ラスクたちの映画観賞は終わっていたらしい。

 画面にエンドロールが流れていた。

 人の姿に戻ったラスクは涙を流しながら油揚げを食べている。


「うぅ……美味しいです……」

「頑張ったねラスクちゃん。休まずに通しで見れるなんて成長したよ!」


 どうやら、ラスクがホラー女優として活躍するには、もう少しだけ時間がかかりそうだ。

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