第137話 瞬間最大風速

 子猫たちも住んでいる猫族宿舎の裏手。

 そこはちょっとした庭のようになっている。


「今日は子猫たちに外遊びをさせてあげようと思います」


 カメラを浮かべて配信中の丈二。

 すぐ近くでは子猫たちが、初めての外にはしゃいでいた。

 しっかりと親猫も子猫たちを見守っている。


『お、今日も子猫たちは元気だな!』

『外でもやること変わらなそうだけどなwww』

『葉っぱに猫パンチしてるの可愛いwww』


 初めての外に興味津々の子猫たち。

 葉っぱを叩いたり、飛び回るバッタを追いかけたりと大忙し。

 しかし、一番人気なのは『彼』だった。


「がう」

「ぜんざいさんは人気ですねぇ」


 日向ぼっこをしているぜんざい。そのお腹の上は大騒ぎだ。

 プロレスを繰り広げる子猫たち。すやすやと眠る子猫。それぞれがぜんざいのお腹を楽しんでいる。

 ふわふわしていて、暖かいのが良いのだろうか。


「ぐるぅ」

「ぴぃ!」


 ちなみに、おはぎときなこも乗っていた。

 子供たちに大人気なぜんざいだ。


『ぜんざいパーク開園!』

『気持ちは分かる。俺だってぜんざいのお腹で寝たいもん』

『出会った当初は野犬みたいに尖ってた毛も、今じゃ飼い犬のふわふわ毛並みだもんなwww』

『良いシャンプー使っとるんやろねwww』


 子供たちの遊び場になれるほど巨大なぜんざい。

 そんな大物に一匹で立ち向かっている勇者が居た。


「ぴゃー!」

「おお、やんのかステップだ……」


 猫又は山のように背中を持ち上げて、ぜんざいに向かって鳴いている。

 毛をぱやぱやに逆立ててやる気満々。『僕の方が強い!』としめしたいのだろうか。

 もっとも、子猫の威嚇などただ愛らしいだけなのだが。


「ぴゃ!」


 ぴょん!

 情けなく飛び上がり、ぜんざいの鼻に飛び掛かる猫又。

 短い手足を必死に動かして、自分の顔よりも大きい鼻をぺしぺしと叩く。


「がう」


 ふん!

 ぜんざいが軽く鼻息を出す。

 猫又は風圧に負けて、こてんと倒れた。

 残念ながら負けである。そもそも勝負になっていなかったが。


『鼻息で負けちゃったかwww』

『いくらなんでも大きさが違いすぎるわなwww』

『やる気があるのは良いことだけど、相手は選ばなきゃなwww』


「ぴー!」


 呆気なく敗北した猫又は逃げるように走り出した。

 丈二のズボンにしがみつくと、わさわさとクライミングを始める。

 安全な所に逃げようとしているのだろうか。


「あぁ、こらこら。負けて悔しいのは分かるけど、俺のズボンに登らないでくれ」


 丈二の灰色の作業ズボンは、所々ほつれている。

 ここ最近、子猫たちがクライミングをするせいで付けられた傷だ。


 丈二は猫又を掴むと、ぜんざいのお腹の上に乗せた。

 猫又はぜんざいに負けたことなど忘れたのか、すぐに他の子猫たちと遊び始める。


「がう」


 その様子を見送って、ぐてんと横になるぜんざい。

 まだしばらく、ぜんざいパークは閉園できそうになかった。

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