第136話 夏の風物詩

「いやぁ、しかしデッカイなぁ」


 のしのしとおはぎダンジョンを歩く海竜。

 首長竜のような見た目をしている海竜だが、割としっかりとした足が付いている。

 素早く動けるわけでは無いが、陸も移動できる。


 そんな海竜は、体だけでもトラックのように大きい。

 ぜんざいを抜いて、おはぎダンジョン最大のモンスターだ。


 じゃぼん!

 海竜が湖へと飛び込んだ。

 すでに魚たちは湖に放してある。海藻は初めから生えていた。

 後は海藻を食べる生き物たち――海竜たちにくっ付いてきているプランクトンや草食魚たちが繁殖してくれれば湖の環境は安定するだろう。


「どうだ。居心地は悪くないか?」

「ぎゃう」


 湖から顔を出した海竜は満足げだ。

 悪くないらしい。


 無事に海竜の移送は成功。

 丈二がほっと息を吐いていると、くいくいと裾を引かれた。

 サブレがこちらを見上げている。


「海竜の名前はどうするつもりにゃ?」

「考えてなかったなぁ……」


 丈二は悠々と湖を泳ぐ海竜を眺めた。

 宝石のような青い鱗が、夏の強い日差しを受けてキラキラと輝いている。


「ヤバい……青いお菓子で良いのが思いつかないな……」


 青いお菓子と言われても頭に浮かんでこない。

 なんとか、思いついたのは昭和風のキッズが描かれたアイスだ。

 だが商標ネームはアウト。まさか○○○○君と呼ぶわけにもいかない。

 怒られてしまう。


「かき氷のブルーハワイとか……名前としては長すぎるもんなぁ……」

「おおー。あれが話題の海竜ですか。大きいですねぇ」


 のんびりとした牛巻の声。

 どうやら海竜を眺めに来たらしい。

 牛巻にも何か考えて貰おうと振り向くと――そこに答えがあった。


 彼女が手に持っていたのは炭酸飲料。

 からりと涼しい音がなる夏の風物詩。

 その薄っすらと青い瓶は、海竜のイメージ合っている。


「よし、海竜の名前は『ラムネ』にしよう」

「うにゃー。牛巻さんが飲んでるの見て決めたにゃ?」

「正直言って、他に思いつかない。海竜もそれで良いか?」

「ぎゃう」


 海竜はあまり名前に関して気にしていないようだ。

 ぜんざいと同じような反応である。


「無事に名前も決まったし、後は上手いこと湖が豊かになるように頑張らなきゃな」

「お魚の食べられる生活に向けて頑張るにゃ!」

「今でもお魚くらいはいつでも食べられますけどね……」

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