第134話 降伏

「ギャオォォォォォン!!」


 首長竜は丈二たちに向かって雄たけびを上げた。

 敵意マシマシ。今にも襲い掛かろうとしている。

 丈二は焦りながら勝男を見た。


「なんですかアイツ!?」

「ウチのダンジョンには何匹がドラゴンが生息しててな……アイツはその一匹。特にデカくて凶暴な奴だ。そうそう出会うことは無いんだが……まさか丈二さんが来てるときに襲われるとは、申し訳ねぇ」


 どうやら、このダンジョンの主とも言えるようなドラゴンらしい。

 縄張りを荒らす丈二たちにブチギレているようだ。


『ジョージ……相変わらず運の悪い男だ……』

『ジョージは強いモンスターを引き寄せるフェロモンでも出してるのかよ⁉』

『早く逃げてー!!』


「出会ったものは仕方がありません。皆、備えるんだ!」

「おう、お前らも気張れ! 客人を無事に陸まで送り届けるぞ!」


 丈二と勝男の言葉を合図に、コボルトたちや船員が武器を取った。

 対象はデカいドラゴン。

 丈二もドラゴンを相手にするのは初めてだが、おはぎを飼うにあたって勉強をした。

 ドラゴンは種族に差こそあるものの最強格のモンスターに分類される。 

 全力で戦わなければ無事では済まないだろう。


「おはぎ、最初から全力で行くぞ!」

「ぐるぅ!!」


 おはぎを巨大化させる魔法を発動。

 それと同時に海竜の口から光が漏れた。おはぎで何度も見たことがある。あれはブレスを放つときの動作だ。


「おはぎ、ビームで迎撃だ!」

「グルゥゥゥ!!」


 成長したおはぎも、同じようにブレスを準備。

 海竜の口から放たれた白い閃光に、おはぎのブレスをぶつけた。

 ズッドォォォォォン!!


『やば!?』

『爆発の規模がデカすぎる!?』

『どこの怪獣映画だよ⁉』


「うぉぉぉ!? 皆、捕まるんだ!」


 空中で引き起こされた巨大な爆発。

 それによって、湖が波打ち船がぐらりと揺れた。


「っ!? マズい!! 転覆するぞ!?」


 勝男が叫ぶ。

 言葉通りに船が傾いた。

 このままでは転覆する。入り口のある島まではずっと遠い。このまま倒れたら無事では済まない。

 おはぎに船を支えてもらうしかない。


「おはぎ――え⁉」

「ぎゃうぅぅ」


 丈二がおはぎへと叫ぶよりも前に、海竜が船を咥えて支えた。

 なんだか、申し訳なさそうな顔をしている。


「ぎゃう……」

「ぐるぅ?」


 海竜がおはぎに向かって頭を下げた。

 先ほどまで怒っていたのはドコへ行ったのか、完全に降伏状態だ。


「……なんで?」


 丈二の問いに、海竜が答えてくれるわけも無かった。




 その後、丈二たちは無事に島へと戻った。

 サブレとおはぎが楽しみにしていたお食事タイムである。


「うみゃい! うみゃいにゃあ!!」

「ぐるぅ!!」


 勝男が用意したバーベキューセットで魚を焼いて行く。

 塩などで軽く味付けした物なのだが、これが不思議なほど美味しかった。

 自分たちで苦労して獲ったから。あるいは新鮮だから。単純に素材が良いのか。なんにしても美味しい。


「えっと……君も食べるか?」

「ぎゃう!」


 なぜかくっ付いてきた海竜。

 丈二が差し出した焼き魚をバクリと一口。

 美味しそうにあむあむと食べている。


『これは……懐いてるのか?』

『またかよ⁉www』

『今回はおはぎに降伏してた気がするけど……』

『もしかして、おはぎちゃんって凄いドラゴンだったりする?』


「まさか、俺たちを苦しめてきたコイツが、こんな猫みてぇに大人しくなるのか……さすがは丈二さんだな」

「いやぁ、俺はなにもしてないんですけど……」


 丈二はおはぎをちらりと見る。

 海竜はおはぎに降伏していた。きっと、おはぎが何か特別なのだろう。

 以前から分かっていたことだが、おはぎはなんとも不思議なドラゴンだ。


「ところで、この海竜はどうしましょうか?」

「俺としては丈二さんの所で連れてくのも良いんじゃないかと思うぜ。こいつらの糞には海藻の成長を助ける働きがあるからな。丈二さんとこの湖が魚たちにとって住みやすい環境になるんじゃないか?」


『クジラの排せつ物とかも、海藻を成長させるらしいよね』

『ドラゴンの糞って魔力が豊富だからな……物によっては高値で売れる』

『ドラゴンのうんこには価値があるのかwww』


「なるほど……」

「まぁ正直言って、ウチに残って暴れられても困るってのもあるんだけどな……」

「あはは……確かにそうですよね」


 現状では海竜は大人しくしている。

 しかし、それはおはぎが居るからかもしれない。丈二たちが去った後にどうなるかは分からない。

 それなら、丈二たちで引き取ったほうが海竜にとっても良いだろう。


 丈二が海竜を見上げると、海竜も丈二を見つめてきた。


「どうかな、付いて来てくれると嬉しいんだけど」

「ぎゃう」


 久しぶりに、明確に繋がりができた感覚。

 どうやら無事に懐いてくれたらしい。

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