第133話 大漁と大物

 丈二たちが甲板に向かうと、すでに釣り竿が用意されていた。

 となりにはエサに使うのであろう。小魚の入ったバケツが置かれている。


「レーダーに魚が引っかかった。水面下には獲物がウヨウヨ居るぜ」


 操舵室から出てきた勝男。

 釣り竿の近くにあったバケツを持ち上げると、ぐわしと中身を掴んだ。

 そのバケツに入っていたのは小魚ではなくエビだった。

 勝男は豪快にエビを海にばら撒く。撒き餌だろう。


「さぁ、どんどん釣ってくれ。ただし、湖に引きずり込まれないようにな」

「釣るにゃあ!」

「ぐるぅ!」


 釣り竿に駆け寄るサブレとおはぎ。

 丈二もそれを追って、サブレの隣に座った。


『二匹ともやる気で溢れてるなぁwww』

『サブレ頑張れー!』

『おはぎちゃんもそわそわしてるwww』


 小魚を釣り針にひっかけて湖に垂らす。

 この釣り竿は特注品。魚モンスターの引っ張りにも耐えられるように作られているらしい。


「うにゃ!? 引いてる――うにゃぁぁぁ!? 引っ張られるにゃあぁぁぁぁ!?」

「危な――うぉ⁉ すごい引きだな!?」


 ぐわっ。サブレの釣り竿がしなると共に、サブレは湖に引きずり込まれそうになった。

 丈二はとっさにサブレの釣り竿を掴む。

 凄い引きだ。丈二とサブレの二人掛でも釣れるか分からない。


『やば!? 流石はモンスター!?』

『ジョージ、落ちないように気を付けて!』


「クーヘン! 手伝ってくれるか⁉」

「了解です」


 クーヘンが釣り竿を掴み、背負い投げのように引っこ抜いた。

 湖から飛び出してきたのは大きな魚。

 体長百五十センチくらいはあるのではないだろうか。中学生くらいの大きさだ。


『クーヘンナイス!!』

『うわ、デケェ魚だな!?』

『こりゃ釣るのも大変だわwww』


 びちびちびち!!

 空中で体を震わせる魚。丈二に狙いを定めると、大きく口を開いた。

 びゅ!

 発射されたのは水だ。まるで高圧洗浄のように勢いよく飛び出してきた。


「あぶな!?」


 とっさに魔法でバリアを張る。

 バキンと音が響いた。生身で受けていたら怪我をしていただろう。


「すぐに捕まえて、例のポーションを飲ませてくれ!」

「了解!」


 びちゃり。甲板に落ちた巨大魚。

 それを犬猫探索隊が抑えると、口にポーションを流し込んだ。

 おはぎダンジョン特製マタンゴ印の睡眠薬だ。

 びちびちと暴れていた魚だが、ほどなくして効果が出てきたのか大人しくなる。


 魚が大人しくなると、寒天が動いた。

 体を変化させて水槽を作り出す。湖の水を吸い上げて、魚を取りこんだ。


『一匹目ゲットだぜ!』

『流石は寒天。仕事のできるスライム』

『幸先良いね!』


 丈二は寒天の水槽を覗き込む。

 なんとなく、アロワナに似ているようなモンスターだ。


「一発目から良いのを釣ったねぇ丈二さん。そいつは『翠龍魚すいりゅうぎょ』。翡翠ひすいみてぇに輝く鱗が特徴だな。プリッとした身が美味い人気商品だ」

「おぉ……。食べるのが楽しみですね」

「ぐるぅ!」


 パタパタと浮かび上がり、丈二と共に翠龍魚を見つめるおはぎ。

 キラキラと目を輝かせて食べるのを楽しみにしているらしい。


 その後も丈二たちは釣りを続行。

 翠龍魚を含めて、どんどん魚モンスターを釣りあげていった。

 やがて寒天水槽も埋まってきたころ。


「よし、そろそろ撤収してお楽しみと行くか!」

「うにゃ!? ご馳走にゃ!!」

「おう、今日釣り上げた魚を、俺がしっかりと調理してやるぜ」

「うにゃあ!」

「ぐるぅ!」


 いよいよ、サブレとおはぎお楽しみタイム。

 船を戻すために勝男が操舵室へと足を向けた時だった。


 ザッバァァァァァン!!

 大きな水しぶきを上げて、空中に巨大な影が飛び上がった。


「ちぃ!? 客が来てるときに出やがったか⁉」

「なんだアレ、首長竜!?」


 飛び出してきたのは首長竜のようなモンスター。

 バシャンと水面に浮かぶと、丈二たちを睨みつけた。

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