第132話 出航

 武器や船が置かれた大きな倉庫のような場所に丈二は立っていた。 


「アンタが丈二さんだな!! らっしゃい!!」

「よ、よろしくお願いします」


 丈二に輝くような笑顔を見せているのは兎束の父である『兎束勝男うづかかつお』だ。

 大柄の体で筋骨隆々。ツルっと輝く頭に白い鉢巻を巻いている。

 なんというか、兎束には似ていない。

 もっとシャープなイケメンが出てくると思っていた。


「どうしたんだい丈二さん、狐につままれたみてぇにぽけっとしちまって。あ、さては俺と娘があんまりにも似てねぇんで驚いてやがるな?」

「すいません。正直ちょっとだけ……」

「ハハハ!! 気にしねぇでくれ。アイツは母親似なのよ。ほら」


 勝男はスマホのロック画面を見せてくれた。

 そこには満面の笑みを浮かべている勝男。その腕に抱かれた幼い兎束。勝男の隣には銀髪の美人さんが写っている。

 この美人が兎束の母なのだろう。なんというか、美女と野獣である。


「それにしても、丈二さんのとこは大所帯だな!」


 丈二の後ろには、おはぎと寒天にサブレ。クーヘンを含む犬猫探索隊が来ていた。

 ぜんざいも来たがっていたが、今回は船に乗る。

 あの巨体で同行するのは難しいため、なんとかお願いして留守番をしてもらっていた。


「もしかして、ご迷惑でしたか?」

「いやいや、むしろしっかりと準備してて頼もしいくらいだ。魚と言っても、相手はモンスター。舐めてかかれば危険だからな……それじゃあ、さっそくダンジョンに入ろう。付いて来てくれ」

「お願いします」


 丈二たちは倉庫を進んだ。

 倉庫の中心には、もはや見慣れたダンジョンの入り口。

 勝男の後を追って、ダンジョンへと入る。


「うぉ、広いですね!」


 丈二たちが出た場所は小さな島だ。

 周囲は見渡す限り青い水面。透き通った水の中には、魚が泳いでいるのが見える。

 島の端には小さな漁港。そこには大きな漁船が停まっていた。


「海に見えるが、実はでっかい湖でな。ここの魚なら、丈二さんとこの湖でも生きていけるはずだ」


 勝男は船に乗り込んだ。

 丈二も勝男の手を借りながら、船に乗り込む。

 おはぎたちも後に続いた。


「生命力も強いから、つがいの魚を持ってけば、後は食い物さえあれば繁殖するはずだ――おう、お前ら! 出航の準備だ!」

「へい!」


 船には数人の船員たちが待機していた。

 勝男の号令に息を合わせて返事をすると、慌ただしく動き始めた。

 丈二たちは邪魔にならないように、勝男を追って操舵室に引っ込む。


「ま、問題は魚が手に入るかだな。しっかりとカメラを回して釣りを楽しんでくれ!」


  ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「そんなわけで、今日は魚釣りに来てます」


 船に揺られながら配信を始めた丈二。

 事前に配信は予告していたので、しっかりと視聴者も集まってくれている。


『モンスターの魚を釣るのかぁ。マグロの一本釣りみたいな感じかな?』

『テレビで見たことあるけど、めっちゃ大変そうだったなwww』

『そら普通の漁でも大変だからな。モンスターとなったらもっと大変よ』

『高級寿司屋で魚モンスターの寿司食ったことあるけど、めっっっっちゃ美味かったわ!』


「ぐるるぅ!」


 おはぎが鼻息を荒くしてやる気を出していた。

 意外とおはぎは魚介系の味が好きだ。おやつもそっち系の味を好んでいる。

 今回の釣りでは獲れたての魚をご馳走して貰えるらしいので、興奮しているのだろう。


「お魚楽しみですにゃぁ……」


 もちろんサブレも口からよだれを垂らして待ちわびている。

 いくらなんでも釣りが始まる前から、ご馳走を楽しみにしているのは気が早い。


「おう、そろそろポイントに着くぜ! 釣った魚どもは襲い掛かって来る。武器を用意してくれ」

「よーし、いっぱい釣るにゃあ!!」

「ぐるぅぅぅ!」


 サブレが操舵室から飛び出す。

 その後を追って、丈二たちも甲板へと向かった。



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