第131話 猫カフェじゃないですよ?

 おはぎダンジョンにある猫族の宿舎。

 その一室は猫又を含む子猫たちが生活するための、子猫ルームとして利用されている。


「はぁ……ここが天国。私が居るべき場所」

「いや、違いますからね? 居座らないで、ちゃんと帰ってくださいよ?」


 そこでは兎束が子猫とたわむれていた。

 兎束が差し出した手に子猫が飛び掛かっている。遊び相手だと分かっているのだろう。

 一緒に来たダイナも子猫に囲まれていた。ふわふわなダイナの毛に突撃されて大人気である。


「ところで、本当にこんなので魚のモンスターを譲ってくれるんですか?」

「恵まれている丈二は、貧しき者の気持ちが理解できていない。私が丈二の配信を見て、どれほどこの状況を羨んだことか……目から血が出るかと思った」

「怖いですよ……猫くらいなら飼えば良いじゃないですか……」


 兎束はモンスターレースのプロ。

 それ相応に稼いでいるはずだ。猫を飼うくらいの余裕はあるはずだ。


「それは無理。一緒に住むとダイナが嫉妬するから。という事で、たまに遊びに来ます」

「ウチは猫カフェじゃないんですけど……まぁ、ご自由にどうぞ」


 魚モンスターも貰えるのだから、それくらいは良いだろう。

 幸いなことに、おはぎダンジョンには犬猫族たちが居る。

 友人を一人招くくらい問題ない。


「それに私はただの仲介役。ダンジョンの持ち主である父からは『ウチの魚を宣伝してくれれば問題ない』って言われてる」

「それなら問題ありませんよ。サブレに魚を食べさせれば大げさなくらい喜んでくれるはずです」

「ぜひそうして欲しい」


 兎束が子猫とたわむれていると、そこに猫又が飛び込んできた。

 ワシワシと兎束のスカートに爪を立てる。

 高そうなスカートなのに容赦なしである。飼い主として心が痛くなるので止めて欲しい。


「おお、元気な子だ……そういえば、プレゼントも持ってきている」

「プレゼントですか?」


 兎束がバッグから取り出したのは、デフォルメされた魚のぬいるぐるみだ。

 カチリ。お尻のあたりに付いたスイッチを押すと、猫又の前に置いた。

 ワシワシワシ!!

 陸に打ち上げられた魚のように、ぬいぐるみは身をくねらせる。

 どうやら動くタイプのおもちゃだったようだ。


 ビックリした猫又は飛び上がるように二本の足で立った。

 しかしバランスが取れずに、こてんと転ぶ。

 だが負けてはいられない。猫又は獲物をしとめるように、おもちゃに飛び掛かった。

 『大人しくしろ!』とばかりに、短い脚でケリケリとぬいぐるみをキックする。


「ふふ、これで練習しておけば、丈二のところで増やした魚を狩ってくれるかもしれない」

「そのまま食べられちゃいそうですけどね」


 その後も兎束は子猫たちとのたわむれを楽しんだ。

 そして日が傾いたころに、名残惜しそうにしながら帰って行った。

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