第129話 授乳配信

「今日は子猫たちにミルクを上げてみようと思います」


 ここ最近通っている子猫ルーム。

 丈二は猫用の哺乳瓶を持って座っていた。

 すぐ近くには配信用のカメラも浮かんでいる。


『ジョージもついに授乳かぁ』

『ついにってなんだwww』

『母猫ちゃんも見守っててカワイイwww』


 後ろでは、母猫がぼんやりと丈二を見詰めていた。

 ちなみに子猫たちへの授乳の許可は取っている。

 サブレにお願いしてもらったところ『好きにしろ』とのお達しが出ていた。


「とりあえず、この子から上げてみるか」


 丈二は近場に居た子猫を膝の上に乗せ、その口元にニップルを近づけた。

 ばくり。子猫は反射的にニップルを咥えると、ちゅうちゅうと飲み出した。


「うぉ、凄い食いつきだ……なんか、ドンドン前のめりになっちゃうな……」


 子猫は哺乳瓶に突撃するように、どんどん顔を出していく。

 そっと体を抑えてあげないと、突っ込んでしまいそうだ。


「ネットで調べてはあったけど、意外と子猫への授乳って難しいな……うっかりすると子猫がひっくり返りそうだ」


『がっつく子は、凄い勢いで突っ込んでくるからなぁwww』

『人間とは勝手が違うよね』

『飲むの下手な子猫も居るからなwww』


 丈二がミルクを上げていると、他の子猫たちがそれに気づいたらしい。

 美味しいものが貰えると丈二に集まってくる。

 ピィピィと鳴きながら、我先にと丈二の膝へと昇ってくる姿は、まるでミルクヤクザだ。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。順番にあげるから……待て、服に登ってこないでくれ⁉」


 なぜか子猫の一匹が丈二の服でクライミング。

 授乳で両手がふさがっている丈二では対処できない。


「お、おはぎ。助けてくれ⁉」

「ぐるぅ!」


 ダッと現れたのはおはぎお兄ちゃん。

 丈二という険しい崖を上っていた子猫の首根っこを咥えて、地上へと戻した。

 どうか地に足を着いて育ってもらいたい。


『人間に集まるゾンビみたいだ……』

『子猫の食欲って凄いからなwww』

『おはぎお兄ちゃんが居なかったら大変だったなwww』


「ぐるるる」


 他の子猫たちの相手もおはぎがしてくれた。

 おかげで丈二は一匹目の子猫の授乳を完遂。お腹をポンポンに膨らませた子猫を膝から下ろした。

 子猫も満足したのか、小さな手で顔を洗っている。


 しかし、まだまだ丈二の仕事は残っている。

 ピィピィと泣き喚く子猫たち。

 『早くミルクを寄こせー!』とシュプレヒコールをしているのだろう。


「よしよし、次の子にもあげるからな」


 丈二が手を伸ばすと、バッと猫又が飛び掛かって来る。

 『次は僕の番だ』と丈二の腕を登って来た。


「おっとっと、急がなくてもミルクはあげるから落ち着いてくれ」


 丈二は猫又を膝に乗せて、ニップルを差し出した。

 がぶり。

 噛みつこうとする猫又だが、焦ってしまって上手く噛めない。

 プルプルと震えるニップルを追いかけて、顔がミルクでびしゃびしゃになっていく。


「そんなに焦るなって……ほら、これで吸えるだろ?」


 丈二が軽く頭を押さえて、ようやく猫又はニップルに吸い付いた。

 ごくごくと勢いよくミルクを飲む。

 丈二の手を押しのけるように手を伸ばしていた。いわゆる『ふみふみ』をしようとしているらしい。


『せわしない子だなwww』

『これはお母さんも苦労してそうwww』

『猫でも子育てって大変なんだなぁ……』

『猫又だから食欲も凄いのかな?』


「凄いな……他の子の倍くらい飲んでるんじゃないか?」


 子猫とは思えないほどにミルクを飲んだ猫又。

 破裂するんじゃないかとパンパンにお腹を膨らませると、ようやく満足したらしい。

 膝から下ろすと、ぐるぐるとエンジンを吹かしていた。


 その後も丈二は子猫たちに授乳を続ける。

 地面に五匹の風船が膨らんでいた時には、哺乳瓶はすっかり空になっていた。

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