第127話 元気な赤ちゃんです

 その日、おはぎダンジョンは緊張に包まれていた。


「頑張れ、頑張るにゃあ……」

「見てるだけなのに、緊張するなぁ……」


 猫族たちが使っている宿舎の一室。

 そこにケージのように段ボールが置かれていた。

 中にはお腹の膨らんだキジトラ模様の猫が横たわっている。


 丈二とサブレを始めとした犬猫族は、その猫の様子を遠くからそっと見守っていた。


『まさかモンスターのペットチャンネルで、普通の猫の出産を見ることになるとは……』

『良く見えないから、もうちょっと近づいて欲しい……』

『あんまり近づくと猫にストレスを与えるからダメだぞ。もどかしくても遠くから見守るんだ』


「あ、生まれるにゃ!」

「おお、お母さんと同じ模様だな」


 キジトラのお尻の方から、同じ模様の子猫がゆっくりと出て来る。

 完全に子猫を出すと、その体をぺろぺろと舐めていた。

 猫は子猫を出産すると、そのへその緒を噛みちぎり羊膜と一緒に食べるらしい。


「あ、動いてるにゃ!」

「元気そうで良かったなぁ……」


『生まれたぁ!!』

『生命の神秘やね……』

『なんかあの子猫、尻尾二つ無い?』

『遠いからよく見えないけど、鍵尻尾かもね。日本の猫には多いらしいし』


 その後も猫は出産を続ける。

 計五匹の子猫を生むと、ピィピィと鳴く子猫を舐めまわしていた。


「そろそろ近づいても良いですかにゃ?」

「大勢で行くと驚かせるから、とりあえず俺とサブレで近づこうか」

「了解ですにゃ」


 猫たちを驚かせないように、ゆっくりと近づく丈二たち。

 出産を終えた母猫は、疲れたのか横になりながら丈二たちを見上げた。

 どことなく誇らしそうな顔をしている。

 丈二が頭を撫でると、ぐるぐると喉を鳴らしていた。


「良かったなぁ。無事に生まれてくれて」

「子猫たちもピィピィ鳴いて元気一杯ですにゃ。体も異常はな――うにゃ?」

「どうした?」


 サブレは一匹の子猫をそっと抱き上げていた。

 母親譲りのキジトラ模様。

 その尻尾が、二つに分かれていた。


「猫又ってやつですかにゃぁ……」

「え⁉ どうしてだ。母親は普通の猫なのに……他の子は?」

「とりあえず猫又なのは、この子だけみたいですにゃあ」


『ふぁ!? なんでだ!?』

『母猫がずっとダンジョンで暮らしてたから?』

『モンスターとの接触や、食べ物が影響してる線もあるな』

『まぁ、可愛い子猫なのには変わりないやろwww』

『一理ある』


 困惑する丈二たち。

 猫又キジトラは、二本の尻尾をピンと立てて、ピィピィと元気よく鳴いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る