3章

第126話 プール配信

「今日はプール配信です」


 セミの鳴き声がうるさくなってきたころ。

 丈二家の庭には小さな子供用プールが置かれていた。

 青いビニールホースからはジャボジャボと水が流れて、プールを満たしていく。


 おはぎときなこが、ぜんざいのお腹の上からプールを覗き込んでいる。

 水が溜まるのを、今か今かと待っているようだ。


『夏だなぁw』

『プール覗き込んでるおはぎたち可愛いwww』

『俺もプール入りたくなってきた!』

『なんか田舎っぽい感じが風流だwww』

『後はアイスとスイカが欲しくなるな』


 今日は休日なため、コメント欄も盛況。

 それぞれが夏トークを繰り広げている。


「よし、こんなもんで良いかな……入っていいぞ!」


 プールに水が溜まると、丈二はホースを引き抜いた。

 そして丈二の合図とともに、プールに飛び込むおはぎときなこ。

 二匹用にちょっと浅めにしているため、しっかりと足が付いている。


「ぐるぅぅ!!」

「ぴぃ⁉ ぴぃぴぃ!」


 おはぎがきなこに水をかける。

 驚いたきなこだが、遊びだと理解したらしい。

 二匹はパシャパシャと水をかけあって遊び始めた。


「がう……」


 そんな二匹を見て、ぜんざいは不満そうに鳴いた。

 『我が入れない……』そう文句を垂れている。


「いや、ぜんざいさんが入れるほどのプールは庭には置けないですよ」


『ぜんざいさんが入るには学校のプールを借りなきゃなwww』

『学校のプールで泳いでるの見てみたいわwww』


 そう理解しても、ぜんざいだって暑いらしい。

 空から照り付ける太陽を忌々しそうに睨むと、ぐてりと頭を下ろした。

 なんだか可哀そうである。


「まぁ、水浴びくらいならできますよ?」

「がう」


 丈二はホースの先端に水やり用のノズルを装着。

 シャワーのように水を出して見せた。

 ぜんざいは『やってくれ』と水浴びをご所望。

 丈二はぜんざいに向かって水をバラまく。


「なんだか、草木に水やりでもしてる気分だ」


『水やりwww』

『毛が育ったら余計に熱くなるんじゃ……』

『抜け毛がヤバそうwww』


 丈二はぜんざいの体に、まんべんなく水をかけていく。

 水を浴びるだけでも違うのだろう。ぜんざいは気持ちよさそうに目を細めていた。


「ぴぃぴぃ!!」

「ぐるぅ!」


 その様子を見ていたおはぎときなこ。自分にもかけて欲しいと鳴き出した。

 

「お、じゃあ、おはぎたちにもかけてやるか」

「ぐるるぅ!」

「ぴぃ!」


 おはぎたちにも水をかけると、わいわいとはしゃいでいた。

 ただ水を浴びているだけだが、楽しいらしい。

 そうしておはぎたちと遊んでいると、家の奥から牛巻が出てきた。

 手に持った皿には細かく切ったスイカが乗っていた。


「先輩、スイカです」

「お、ありがとう。皆、スイカを食べないか?」

「ぐるぅ!」

「ぴぃ!」


 丈二がスイカを受け取ると、プールから飛び出して駆け寄って来る二匹。

 二匹の前にスイカの乗った皿を差し出すと、シャクシャクと食べ始めた。


「がう」

「あ、ぜんざいさんには別の物を用意してまして」


 丈二は部屋の奥から別のスイカを取り出した。

 少し小ぶりのスイカだ。


「これを丸ごとカブっと言って欲しいんです」


『丸ごとwww』

『それカバがやってる動画見たわwww』

『俺も見たことあるわwwwカバのエサやりかよwww』


「がう」


 『良いだろう』そう言って大きな口を開くぜんざい。

 丈二はその口に、スイカをセット。

 小ぶりなスイカは綺麗にぜんざいの口に収まった。


 グシャ!!

 豪快な水音と共に、スイカが嚙みつぶされた。

 ぜんざいはシャクシャクとスイカを食べる。

 苦も無く丸ごと咀嚼している。


『すげぇwww』

『小さめとはいえ、スイカを丸ごとかwww』

『やっぱ、ぜんざいさんの噛む力とかヤバいんだなぁ』

   

「サブレに勧められてやってみたんですけど……口の周りが汚れるので今後は止めておきましょうか」


 ぜんざいの口周りから漏れるスイカの汁を見て丈二は呟いた。

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