第125話 祭りのあと
「――そんなわけで残念会だ!! 今回の悔しさを飲み込むために、今日は好きなだけ食ってくれ!! 乾杯!!」
『カンパーイ!!』
「ぐるぅ!」
「ぴぃ!」
西馬の掛け声とともに、丈二たちはグラスを持ち上げた。
おはぎダンジョンの温泉宿。
そこの広場では、モンスターレースの参加者や犬猫族たちを集めて宴会が開かれていた。
趣旨としては失敗に終わったモンスターレースの残念会。
ちなみに費用は西馬持ちである。
「丈二さん、悪かったな。失敗しちまって……」
「いや、西馬殿のせいではない。我々の警備が甘かった」
レースの責任者である西馬は、丈二の隣に座ると軽く頭を下げた。
それに反応してクーヘンも頭を下げる。
「いや、俺がリーマン男の話に乗ったせいです!!」
「俺もアイスから目を離しちまったから……」
「にゃあん」
さらにかまいたちの飼い主が土下座。
続いて升田とアイスも頭を下げる。
いきなりの謝罪大会である。
「いやいや、諸悪の根源は別に居るんですから、皆さんのせいじゃないですよ! それにレース自体の評判は悪くないんですよね?」
丈二の問いに西馬が口を開いた。
「ああ、レースの妨害を計画したのは、反社が隠れ蓑に使ってたモンスター愛護団体らしくてな……どこかの誰かが今回の件と合わせてスキャンダルをバラまいたから、今回の大会の失敗には同情的なコメントが多い」
「SNSなんかじゃ、次回の開催を望んでる声も多いですし……成功寄りの失敗じゃないですか。また次に頑張りましょう」
「……そうだな」
丈二が肩を叩くと、西馬はニヤリと笑った。
二人はこつんとグラスを当ててビールを飲む。
「次の開催があるなら、ぜひ呼んで欲しい」
そう涼やかな声で言ったのは兎束だ。
すぐ隣ではダイナが山盛りのサラダを暴食している。
ダイナの傷はすっかり塞がり、元気になっている。
「あ、レースじゃなくても呼びましょうよ! 美少女呼んだら数字が上がりますよ!」
「うにゃあ! なんか企画が思いつきそうな気がするにゃ……!!」
牛巻とサブレが手を上げた。
動画の数字にうるさい二人らしい反応である。
「いつでも呼んでくれて良いよ……別にプライベートでも……」
「あ、あれぇ。なんか兎束さん近くないですか? もしかして、女の子も行けるタイプですか……ごめんなさい。私はちょっと……」
「最初は皆そう言う」
「せ、せんぱい!! 助けてください!!」
目をランランと輝かせて牛巻に迫る兎束。
なんだか肉食獣に襲われる草食動物のようだった。
丈二はそっと目を逸らす。
「ウチは従業員のプライベートには口を出さないから」
「ちょっと、むしろ従業員を守ってくださいよ!?」
そんなこんなで、残念会は盛り上がった。
やがてお酒の入った面々は潰れていき、犬猫族たちはいつものペースト状のおやつがプリンのように詰まった『おやつタワー』を平らげて、満足して横になっていた。
「おはぎ、ちょっと散歩でも行くか」
「ぐるぅ!」
もともと、お酒は控えめにしか飲まない丈二。
おはぎを連れて温泉宿から出た。
外には月が昇っている。天井に映っているだけの偽物の月かもしれないが、キレイな満月がダンジョンを照らしていた。
「ぜんざいさんも散歩ですか?」
「がう」
外に出ると先客が居た。
ぜんざいがジッと空を見詰めている。
その頭の上には、寝息をたてるきなこが乗っていた。
「大きなイベントも終わって、明日からはいつもの日常です。少し寂しいですね」
大きな祭りが終わり、騒ぎが去った。
残ったのは静かな月夜だ。
「……がう」
『また開けば良い』ぜんざいはドタンと体を横にした。
上手いこと投げられたきなこが、ぜんざいのお腹にぽふんと落ちる。
「そうですね」
「ぐるぅ!」
丈二はおはぎを抱いて、ぜんざいのお腹を拝借。
枕の用に寝転がって、一人と二匹で月を見上げた。
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