第124話 痛み分け
「言われた通りにやりましたけど?」
夕飯時の住宅街。
寂しく道を照らす街灯の光を受けて、リーマン風の男が立っていた。
男はカバンの中から透明な液体の入った瓶を取り出す。
キュボンと蓋を開けると、中身を飲んだ。
中身は透明なタピオカミルクティー。
カバンの中に入っているもう一つの物体が、体に害の無い物だと騙すための偽物だ。
喉が渇いた時に勝手に飲んでいることもある。
男がもう片手で持っていたスマホから声が流れて来る。
男の上司のものだ。
「そうですね。作戦は成功です。クライアントの依頼通り、モンスターたちを暴れされることには成功しました」
「モンスターを暴れさせて、モンスターが不当に管理されていることを知らしめる……でしたっけ? 俺にはよく分かんないですけど」
男が聞いていた話では、今回の依頼人たちはモンスターを守ることに使命を感じているらしい。
今回の騒ぎもその一環。
テレビやネットで注目されているレース中にモンスターを暴れさせて、モンスターたちは人間に管理されることを嫌がっていると、世界に教えたかったらしい。
「なんでも良いですけど、ボーナスに期待してますよ」
「……作戦は成功でも、結果は失敗です」
「……はぁ⁉」
ピロン。スマホから音が鳴った。
確認すると送られてきたのは、ネットニュースのリンク。
リンクをタップしてみると、あらビックリ。
「脱税、反社団体との繋がり、詐欺、強盗、恐喝――え、これって今回の依頼人たちの悪行ですか?」
「はい。どこかの誰かが情報を集めて、ネット上にばら撒いたようです。これでは依頼人からの追加報酬は期待できません」
「うっそぉ……」
「今回の件への関与も言及されていますから、むしろモンスターレースの主催側に同情的な世論が形成されるでしょうね。我々も対処を考えなくてはいけません。これから残業です」
「ざ、残業……⁉」
それは社畜への死の宣告。
しかもこの様子ではデスマーチ。
一仕事終えたと思ったら、また仕事の負の連鎖である。
「向こうに厄介な死神が付いていたのが運の尽きでした」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ふざけやがってぇぇぇぇえっぇぇぇ!!」
パソコンの画面に照らされているのは、犬のような顔をしたモンスター。
ひょろりと伸びた指を器用に動かして、カタカタとキーボードを打ち付けている。
その様子を、半開きのドアから幼い女の子が覗いていた。
「キビちゃん、荒れてるね」
「これがキレずにいられるかぁ!! バカな愛護団体どものせいで、俺の賭け金がパァになったんだぞ!? きなこなら絶対に勝てたのにぃ!!」
「勝負は時の運」
「クソォぉォォォ!!?」
おはぎダンジョンで開催されたモンスターレース。
ネットの深い所では、そのレースの結果を使って違法な賭博が開かれていた。
その賭博で勝つために、ちょっとだけきなこを手助けして独り勝ちを狙っていたキビヤック。
しかし、アクシデントによってレースはめちゃくちゃに。
いちおう、アイスだけは一着でゴールしていたので、その結果だけを考慮して報酬が支払われた。
しかしキビヤックはきなこ一転狙い。
結果としてボロ負けしていた。
その怨嗟を抱えてネットの海をさまよっていたキビヤック。
誰かに恨みをぶつけたかった。
すると、とあるモンスター愛護団体団員のSNS投稿を発見。
そこでは、おはぎダンジョンで開かれるモンスターレースで不幸なことが起きることを予言していた。
そこでピンときたキビヤック。
こいつらが諸悪の根源だ。
試しに愛護団体関係者のSNSなどにハッキングを仕掛けると、暗い活動内容がボロボロと出て来る。
どうやら愛護団体とは名ばかりで、団体を運営するのは金の亡者たち。
元は反社会的組織だった奴らが、隠れ蓑として作った団体だったらしい
さらにお目当ての、モンスターレースの事件への関与を思わせるやり取りも発見。
キビヤックはすぐさまに、この団体の悪行をネットにばら撒いた。
「……ッキリした?」
「スッキリしても、俺の金は帰ってこないんだ……」
そうして、私怨から反社会的組織を潰していたキビヤックだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます