第123話 雷鳴

「もしかして、きなこが戦うつもりなのか?」

「ぴぃ!!」


 鼻息を荒くして主張するきなこ。

 確かに、きなこの早さならばアイスに追いつける。

 そして足止めさえできれば、おはぎのビームを当てることも可能。

 しかし、ひな鳥のきなこではアイスの足止めさえも難しい。


「いや、おはぎが成長するのと同じ魔法を使えば……!!」


 正直に言うと、あれがどんな魔法なのかは丈二にもよく分からない。

 だが以前にぜんざいが言っていた所によると、一時的にモンスターを成長させる魔法のようだ。

 きなこに使えば大幅な戦力アップが期待できる。


「きなこ、やってみるか?」

「ぴ!」


 力強くうなずくきなこ。

 丈二はそれに応えるべく、魔法を行使した。


「ぴ⁉ ぴぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」


 おはぎと同じように黒い煙に包まれるきなこ。

 きなこの鳴き声が収まると、煙を吹き飛ばすように突風が吹き荒れた。

 それと同時に巨大な影が大空に舞う。


「ピィィィィィィ!!」


 タカのような甲高い鳴き声が大空に響き渡った。

 空に浮かぶのは青と黄色の羽に包まれた巨大な鳥。

 バリバリと雷を放ちアイスを見下ろしていた。


「あれが、成長したきなこ!!」

「うにゃー。凄いですにゃあ!?」


 興奮したサブレが走り寄って来た。

 そのすぐ後ろには配信用のカメラ。コメント欄もバッチリ見える。


『きなこちゃんスゲェぇぇ⁉』『きなこがカッコよくなっちゃった⁉』『ひゃだ……イケ鳥じゃん……⁉』『雷を放ってるし、まるでサンダーバードだ……』『ひよこじゃなかったんか⁉』


「よし、きなこ!! アイスを足止めしてくれ!!」

「ピィ!!」


 ズドン!!

 まるで雷が落ちたような轟音が響く。

 それはきなこが移動した音。バチバチと静電気を鳴らして走っていたひよこの時とは迫力が違う。

 まさに雷のようにアイスに迫ると、大きな爪で鷲掴みにしようとした。


「ガルルルァ!!」


 しかし、アイスも一筋縄ではいかない。

 ツルリと滑りきなこの掴みを回避。

 距離を取りながら空気中に氷柱を生み出し、きなこに向けて発射。

 きなこはバリバリと雷鳴を轟かせて避けると、アイスを追いかけた。


「ピィィィィィィィィ!!」

「ガルァァァァァァァァ!!」


 風のように氷上を滑るアイス。

 稲妻を置き去りにして迫るきなこ。

 二匹はグングンとスピードを上げていく。

 まるで速さの頂を目指すように加速をし続ける。


『は、速い……⁉』『配信のFPSが追い付いてないよ!!』『バターになっちゃうぅぅぅ!!』『バターアイス』『そんな冗談言ってる状況じゃないやろ⁉』


 速度を上げ続ける二匹。

 しかし、きなこの方が、より速くなっている。

 少しずつ二匹の差は縮まっている。

 そして、追いついた!!


「ピィィィ!!」

「ガルルァァ!?」


 きなこがアイスを掴むと、バリバリと雷が走った。

 痺れるアイスは抵抗を封じられている。

 今なら、おはぎの光線が当て放題だ。


「今だ。ビーム!!」

「グルゥゥゥゥゥ!!」


 あらかじめ準備していたおはぎの光線が放たれた。

 必死に逃げようとアイスはもがくが、きなこの爪にガッチリとホールドされていて動けない。

 緑の光がアイスを包み込む。


「ガルルルァァァァア!!」

 

 光が消えた時には、安らかに眠っているアイスがきなこに掴まれていた。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「丈二さん。ありがとうございます」

「みゃおん」


 深く頭を下げた升田。

 彼にぴったりと寄り添ったアイスが、可愛らしい鳴き声を上げた。

 少しいかつい見た目からは想像もできないほど、甘えた猫のような鳴き声だった。


「丈二さんが居なければ、アイスは今頃……」

「いえ、こちらこそ申し訳ありません。会場の警備体制をもう少し厳重にしていれば……」

「いや、俺がアイスから目を離したばっかりに……」


 頭を下げあう二人。

 そこに割って入る声が響いた。


「す、すいませんでしたぁぁぁぁ!!」

「いや、まぁ、貴方のせいでもないですよ」


 二人に向かって土下座を決めているのは、大学生くらいの青年だ。

 ちょっとチャラい格好をしている。

 彼はかまいたちに似たモンスターの飼い主だ。

 顔を上げると、涙やら鼻水で顔がぐじゅぐじゅになっていた。


「俺、賞金に目がくらんで……変な薬をこいつに飲ませちまって……まさか、あんな事になるなんて」

「変な薬ですか?」

「はい。スーツ着たリーマン風の男に貰ったんです。これなんですけど……」

「あぁ、俺も同じヤツを渡されそうになった。怪しいから断ったけどよ」


 青年が差し出してきた瓶を受け取る。

 中にはタピオカの吸い残しのように、透明なつぶつぶが残っていた。

 蓋を開けて匂いを嗅いでみるも無臭である。


「よく分からないですけど、警察に提出しておきますね」


 これの正体は分からないが、丈二が調べれるものでもない。

 後は国家権力に任せるしかないだろう。


「クソ。あのリーマン野郎が……見つけたらぶん殴ってやる!!」

「みゃおん」


 犬歯をむき出しにして怒る升田。

 しかし、その手はアイスに伸びてワシワシと頭を撫でる。

 アイスは嬉しそうに鳴いていた。

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