第122話 疾走

「ぜんざいさんとクーヘンたちは来場者の護衛を! 他の皆は来場者を避難させてくれ!」


 丈二の掛け声によって、おはぎダンジョンのモンスターたちが動き出した。

 彼らに任せれば来場者の安全は確保できるはず。

 丈二とおはぎは台風を作り出している、かまいたちのようなモンスターに対峙する。


「あのモンスターもどうにかしたいけど、たぶん例のナメクジの仕業だよな……」


 かまいたちが暴走する直前。まるで苦しむようにうめいていた。

 あの感じはコボルトたちがナメクジに寄生されていた時に似ている。

 どこからナメクジが入り込んでいたのかは不明だが、今回もアイツらの仕業だろう。

 ナメクジを浄化するためには丈二の回復魔法が有効。


「だけど、ダイナを治療するのが先か」


 ダイナの背中からは血が流れ続けている。

 見た目以上に傷が深いようだ。このままでは命に係わる。


「おはぎ。アイツの足止めを頼めるか?」

「グルゥゥ!!」


 『任せて!!』おはぎは強くうなずくと、大きな翼を広げた。

 台風に突進するおはぎ。口から放たれる光線によって、台風の意識がおはぎに向く。


「今のうちに治療だ」


 丈二はダイナに向きなおり回復魔法をかけた。

 薄っすらと光るダイナ。じわじわとその傷が癒えていく。


「ダイナ!!」

「兎束さん!? 危険ですから避難してください!!」


 降り注ぐ風の刃の中を、兎束が走り抜けてきた。

 ダイナに寄り添うと、励ますように頭を撫でる。


「嫌。ダイナを見捨てられない!」


 真っすぐに丈二を見つめる瞳。

 そう言われては無理強いもできない。

 丈二だって、おはぎやぜんざい。皆が危険な状態で自分だけ逃げることなどできない。


「分かりました。早めに治療を終わらせます」

「お願いします。丈二さん」

「いえ、きなこを助けて貰いましたから、当然のことです」

 

 丈二が強く魔力を込めると、ダイナの傷がたちまち塞がっていく。

 おはぎと出会った頃は、ここまで上手く回復魔法は使えなかった。

 なんだかんだと荒事に巻き込まれている内に、丈二の回復魔法は着実に練度を上げていた。


「ダイナ。大丈夫?」

「ぴぃ?」


 傷がふさがったダイナに、兎束ときなこが声をかける。

 薄っすらとダイナが目を開いた。


「きゅう?」

「ぴぃ!!」

「良かった……!」


 これでダイナは大丈夫。

 後はかまいたちのモンスターを鎮めるだけだ。


「おはぎ! 決着を付けるぞ!」

「グルゥ!!」


 おはぎは空中で一回転すると、丈二の傍に下り立った。

 丈二がおはぎに手を添えて魔力を流す。

 おはぎの口元から緑色の光があふれ出した。


「グルゥゥゥゥゥ!!」


 放たれたおはぎの光線。

 かまいたちは台風を強めて弾き返そうと奮闘するが、焼け石に水だ。

 緑の光線は台風を貫き空へと昇った。


 台風がかき消えると、かまいたちのモンスターが残される。

 気を失ったようで重力に従って自由落下を始めた。


「おはぎ。受け止めてあげてくれ!」

「グルゥ!」


 飛び立ったおはぎがそれをキャッチ。

 無事にかまちたちの鎮静化に成功した。


「ふぅ……とりあえず何とか――」 

「アイス⁉ どうしたんだ!?」


 升田の叫び声が響いた。

 ゴール地点を見ると、アイスが苦しむように呻いている。


「マズい⁉ 升田さん、アイスから離れてください!!」

「何を言って……ッ!?」

「ガルルルルルァァァァァ!!!!」


 空に響くアイスの咆哮。

 それと共に巨大な氷塊が花開いた。

 氷塊に吹き飛ばされた升田がゴロゴロと転がる。


「アイスまで暴走するのか……⁉」


 おはぎダンジョンの空気が変わる。

 肌を突き刺すような冷気に包まれる。

 空が曇天に覆われると、ハラハラと雪が降り始めた。


 氷塊の上に影が上った。

 真っ白な氷の鎧に包まれたアイスが、百獣の王のように君臨している。


「おはぎ! もう一度ビームだ!」

「グルゥ!」


 おはぎに丈二が手を添えて、再び光線を放つ。

 緑の光線は八つに分かれると、アイスへと迫った。


「ガルルルアァァ!!」


 アイスはツルリと氷を滑り落ちる。

 おはぎの光線はそれを追うように軌道を変えた。

 しかし、追いつけない。


 アイスはぐんぐんと加速をする。

 縦横無尽に氷を広げて滑り続ける。

 やがておはぎの光線は勢いを失い、空気に溶けるように消えていった。


「グルゥ⁉」

「おはぎの光線が当たらない……」


 アイスは日本最速と評されるモンスター。

 その速度は暴走状態でも活かされるらしい。

 おはぎの光線を振り切るほどの速度で氷上を滑る。

 このままでは、アイスを鎮めることができない。


「マズい。どうしたら……」

「ぴぃ!!」


 悩む丈二の前に、きなこが飛び出してきた。

 その瞳はやる気に満ち溢れていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る