第121話 接戦とぶち壊し

「さぁ、おはぎダンジョンのモンスターレースが始まろうとしてますにゃ!」


 マイクを通したサブレの声が会場に響く。

 スタート地点にはずらりとモンスターたちが並んでいた。

 もちろん、きなこの姿もある。真剣な眼差しで彼方を見詰めていた。


「実況はサブレが、解説は西馬さんがお送りしますにゃ!」

「よろしく頼むぜ」


 ちなみにレースの様子は丈二のチャンネルでも配信中。

 コメントも盛り上がりを見せていた。


『キターー!!』『きなこちゃん頑張れー!』『真剣そうなきなこちゃんも良い……』『行けぇぇぇ差せぇぇぇぇ!!』『いや、まだ差すとかいう話じゃないんよwww』


「ちなみに、今回の注目選手は誰なんですにゃ?」

「ダイナとアイスだろうな。あの二匹は海外のモンスターレースに参加してる本物のプロだ。日本最速のモンスターと言えば、二匹のどちらかの名前が上がる」

「うにゃ!? そんなに早いんですにゃー」

「今回のレースで言えば文字通り別格だ」


『ガチ勢やん⁉』『海外で開かれてるモンスターレースの中継とかで、たまに見かけるよな』『うひゃー。きなこちゃん厳しいか?』『いや、俺たちのきなこならやってくれる!!』


「ただ、身内贔屓みうちびいきになるかもしれないが、きなこも負けてないはずだ。近くで見ていた限り、きなこの走りは日々進化してる。もしかすると――ってこともあるだろうな」

「今回のレースのダークホース枠なんですにゃあ」


 サブレと西馬が場を繋いでいる間に、レースの準備が整った。


「いよいよ。発走の準備が始まりましたにゃ……」


 審判がピストルを空に向ける。

 静まる会場。全ての視線がスタート地点に集まる。

 よーい。と声が響く。


 パン!!

 乾いた発砲音と同時に、モンスターたちが走り出した。


 列から飛び出したのはダイナとアイス。

 二匹に食らいつくように走るきなこ。

 その後ろからモンスターたちが追従する。


「うにゃあ! ダイナとアイスが早いにゃ! 二匹の走力は互角にゃあ!?」

「直線ならダイナの方が強かったはずだが……アイスがしっかりと追いついてるな。今後の障害物ゾーンで差が開くかもしれねぇ」

「さっそく、先頭の二匹はうっそうと茂る森の中に入って行ったにゃ!!」


 会場に設置された大きなスクリーンに森の様子が映る。

 ドカンドカンと爆発音を鳴らしながら、細かい枝葉を粉砕して突き進むダイナ。

 一方のアイスは氷上を滑るように、優雅に木々の合間を抜けて行く。


「二匹とも早い。早いにゃ!! ああっと⁉ しかし、きなこが徐々に追いついているにゃ!?」

「試走の時には手こずってたが……しっかりと仕上げてきたな」


 バチバチと木々の隙間を縫うように光る稲妻。

 それはきなこが走る軌跡だ。

 先頭の二匹との違いは、きなこは三次元的に走っていること。

 縦軸さえも自在に動き、二匹よりも効率的に森を駆け抜けていた。


『きなこちゃんすげぇぇえぇえ!?』『マジで優勝あるだろ!!』


 結果として森を抜けた時には、きなこが二匹に並ぶように走っていた。


「ダイナはクールな見た目に反して気合入ってるな。無理やり障害物をぶち抜きながら走り抜けやがった。きなこは縦も利用して自在に走って二匹に追いつき、結果としちゃあほぼ横並びか……アイスにとっちゃ誤算だったろうな」

「うにゃあ!? 勝負はますます分からなくなってきたにゃ!!」


 その後も走り続けるモンスターたち。

 カウシカたちが見守る野原を駆けて、たいやきたちがお湯を振りまく温泉地帯を抜ける。

 そしておはぎダンジョンをぐるりと駆け抜けたモンスターたちは、スタート兼ゴールへと続く長い直線に差し掛かかる。

 ――しかし、そこで異変が起きた。


「グルルルルルアァァァァァァ!!!」

「な、なんにゃあ!? ひゅるりら選手が苦しみだしたにゃあ!?」


 きなこたちの後方を走っていた、かまいたちのようなモンスターが苦しみだした。

 会場に突風が走る。風がかまいたちに集まると、まるで台風のように渦を巻く。

 育ち切った巨大な台風から、風の刃が炸裂した。

 無差別に当たり散らすように、あちこちに斬撃が飛ぶ。


「ぴぃ!?」


 斬撃の一つがきなこに襲い掛かった。

 きなこが気づいた時には、すでに目の前に迫っている。

 避けられない。


「きゅい!!」


 ズドン!!

 響いたのは爆音。ダイナがきなこに体当たりをして吹っ飛ばした。

 きなこは間一髪で斬撃を回避。

 しかし、ダイナはそうもいかない。


「きゅう⁉」


 ダイナの背中が切り裂かれ、ドクドクと血が流れた。

 真っ白な毛が赤く染まる。

 

「ぴぃぃ……」


 きなこがダイナに駆け寄るが、流れる血にどうしようもない。

 おろおろと悩むことしかできない。


「グルルアァァァ!!」


 台風から赤い二つの目がきなこたちを睨んでいた。

 きなことダイナに狙いを定めたらしい。

 このままではダイナが殺される。きなこはそう直観すると、小さな体を必死に膨らませて威嚇をした。


「ぴぃぃぃ!!」

「グルァァァ!!」


 しかし効果は無い。

 台風から巨大な風の斬撃がきなこたちに襲い掛かる。

 これまでかと、きなこがギュッと目をつむった時だった。


「きなこ! 時間を稼いでくれてありがとう!!」

「ぐるぅ!!」


 二匹の前に飛び出したのは、丈二とおはぎ。

 丈二が張ったバリア魔法に斬撃は遮られる。

 おはぎの体が黒い煙に包まれると、煙が晴れた時には巨大なドラゴンへと変化していた。

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