第120話 差し入れ

 おはぎダンジョンに入ってすぐに広がる、犬猫族たちの街。

 そこにずらりと屋台が並んでいた。

 まるでお祭り。タコ焼きや焼きそばなど、様々な出店が揃っている。

 そこをがやがやと、大勢の人が行き交っていた。


「さぁいらっしゃい! ロシアンたこ焼きはいかがですにゃぁ!!」


 たこ焼きの匂いが漂う出店の前では、サブレがにゃあにゃあと客引きをしていた。

 頭には鉢巻を巻いて、はっぴを着ている。相変わらず、形から入る猫である。


「わぁ!? サブレちゃん久しぶり!!」

「元気にしてたか?」

「たこ焼き美味しそう!!」


 サブレの客引きに釣られてやって来たのは、三人の子供たち。

 その三人にサブレは見覚えがあった。


「おやおや、ボクを助けてくれた子供たちですにゃ!!」


 サブレを丈二の元に連れてきた子供たちだ。

 今回のモンスターレースでは、マスコミ関係者の他に、近所の人たちもやって来ている。

 日頃、丈二家が騒がしているお詫びを含めての招待だ。

 そのため屋台で出している商品は原価ギリギリ。大安売りとなっている。


「あの時のお礼がまだでしたにゃ! たこ焼きをあげるにゃ!」


 サブレが目配せをすると、調理をしていた猫族が透明なパックにたこ焼きを詰めてくれた。

 サブレはそれを三つ受け取ると、子供たちに配った。


「なにが入ってるか分からない! ロシアンたこ焼きですにゃ! 熱いうちに食べてにゃあ」

「ありがとう!!」


 子供たちははしゃぎながらたこ焼きを受け取ると、つまようじですくってぱくりと一口。

 どうやら当たりを引いたらしく、美味しいと喜んでいる。


「おっと、ボクはちょっと用事があるから失礼するにゃ」

「えー、サブレ行っちゃうの?」

「ごめんにゃあ。また後で遊ぼうにゃ!」


 サブレは残念そうな子供たちに肉球を振るうと、駆け足で屋台を離れる。

 向かう場所は木で作られた小さな小屋。

 サブレが中に入ると、ずらりとディスプレイが並んでいた。

 画面に映っているのは、おはぎダンジョンや丈二家の周辺。

 その視点はとても低く、画面の端にはモフモフとした手足が映っている。

 周辺を見回っている猫たちの首に付けられた監視カメラの映像だ。


「どんな感じにゃ?」

「今のところ異常は無いな」


 画面の前にはクーヘンが座っていた。

 鋭い目つきでジッとカメラを見つめている。虫一つ見逃さないように、気を張っているようだ。


「あんまり頑張りすぎると疲れちゃうにゃ」

「問題ない。ダンジョンで戦うよりは楽なものだ」

「そうかにゃ? ま、ご飯くらいは食べたほうが良いにゃ!」


 サブレはたこ焼きの入ったパックをクーヘンに差し出す。


「そうだな。頂こう」


 クーヘンはたこ焼きを受け取るとパクリ。

 複雑そうに目を細めた。


「……どうせなら犬用のおやつを入れておいて欲しかったな」


 どうやら、猫族が気に入っているペースト状のおやつが入っていたらしい。

 犬と猫では味覚が違う。

 マズくはないが、どうせなら犬族用のおやつを入れて欲しかったようだ。


「えー、猫用の方が美味しいにゃ」

「なんだと!?」


 サブレのぼやきに、クワッと目を見開くクーヘン。

 サブレを睨むが、すぐに画面へと目線を戻した。


「……止めておこう。この話は争いを生み出す」

「たしかににゃ……菌と竹の戦争を再発するのは良くないにゃ」

「そうだろう……ん? コイツは……」


 クーヘンの目線の先には、丈二家の外が映っている画面。

 その画面をスーツ姿の男が横切って行った。


「どうかしたのにゃ?」

「今横切ったスーツの男。歩き方が独特だった。まるで音を消すような、斥候の奴らがする歩き方だ」

「うにゃ!? 不審人物にゃ!?」

「念のため、注意したほうが良いな……各員に告ぐ。不審な人物を発見した。注意しろ。特徴は――」


 クーヘンはトランシーバーを取り出すと、警備にあたっている犬猫族たちに情報の伝達を始めた。


 サブレはあわあわと慌てながら画面を見ていると、スーツの男がやって来た方からスノウが歩いてきた。

 反対側から来た升田はスノウに駆け寄ると、心配そうにスノウを撫でている。

 もしかすると、スノウが迷子になっていたのだろうか。


「うにゃー。何事もなく終わってくれると良いんだけどにゃー……」 

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