第115話 シープシミュレーター

 ゴロゴロ……ビシャーン!!

 真っ黒な雲に覆われた空。雲の中でゴロゴロと雷がのたうち回っている。

 一面に広がるのは黄金色の平原。背の低いススキのような植物によっておおわれていた。


 丈二は空を見上げて、ぶるりと震える。


「うわ……雷が怖いなぁ」

「ぐるぅ」

「ぴぃ」


 おはぎときなこも、空を見上げて震えている。

 一方で、護衛として来ている犬猫探索隊はどこ吹く風――と思いきや尻尾を丸めている。

 彼らも怖いのだろう。


「まぁ、『傘』を持ってきたから大丈夫なはずだ」


 丈二たちの近くには、丸い球体が浮かんでいた。

 撮影用のカメラではない。

 落ちてきた雷を逸らしてくれる道具だ。

 名前は『避雷傘ひらいさん』、通称で傘と呼ばれている。


「ただ、長居はしたくないな……早く兎束さんが教えてくれたモンスターを探しに行こう」


 ここは兎束に教えられたダンジョン。

 きなこの走りの参考になるようなモンスターが生息しているらしい。


「ぴぃ!!」


 きなこのやる気に満ちた返事。

 それを合図に丈二たちはダンジョンの奥へと進み始めた。

 そして、ゴロゴロと響く音にも慣れたころ――。


「お、アイツじゃないか?」


 丈二が指を指す。

 その先に居たのは、黄金色の羊。夕焼けに照らされたススキ畑のような色だ。

 もしゃもしゃと地面から生えた植物を食べている。


 丈二はスマホを取り出して、目指していたモンスターと見比べる。

 間違いない。あれが探していたモンスターだ。


「よし、きなこ……これから特訓開始だ!」

「ぴぃ!」


 兎束からは参考になるモンスターだけでなく、きなこの特訓方法も教えられていた。

 その方法はいたって単純。


「あの羊を追いかけて、毛を取って来るんだ!」

「ぴぃぃ!!」


 バチバチ!!

 きなこは雷を残しながら走り出す。

 その音を聞いた羊は、不思議そうに振り向いた。


「メェ……メェェ⁉」


 慌てたように走り出す羊。

 しかし、その足は遅い。これならあっという間に、きなこが追い付く。

 もしかしてモンスターを間違えたのか。

 丈二が首をかしげた時だった。


「おぉ!! 浮かんだ!!」


 ふわり。

 羊が浮かんだ。バチバチとススキに向かって電気を走らせている。

 もしかして、電磁気を利用して浮かんでいるのだろうか。


 ばひゅん!

 浮かび上がった羊は、凄いスピードで動き出した。

 空中をすいーっとスライドしているのは、なんともシュール。

 ゲームのバグみたいだ。


「だけど、早さなら負けてない!」


 見た目は凄いが、速度はきなこの方が上。このままいけば無事に追いつく。


「ぴぃぃぃ!!」


 きなこはさらにスピードを上げる。

 羊との差は縮まっていく。

 あと少しで、羊にくちばしが届きそう――。


 カクン!!

 羊が直角に曲がった。


「なんだ、あの動き⁉」


 きなこは急には曲がれない。

 羊を追いかけることもできず、走り続けてしまう。


「ぴぃぃぃ!」


 それでも何とか方向転換。

 もう一度、羊に向かって走り出すが。


「めぇぇ?」

「ぴ、ぴぃぃ!?」


 羊はぐるんぐるんと、きなこを中心として周る。

 しかも速度は落ちていない。一定の速度を維持している。


「なんか、シュールすぎて現実味が無いな……夢じゃないよな?」

「ぐるぅ……?」


 なぜか羊は一つの方向だけを向いていた。

 そのままグルグルと周っているのは、やはりゲームチックな動きだ。

 

「ぴ、ぴぃ……」


 グルグルと周られたきなこ。

 羊を目で追っていたら、目が回ってしまったのだろう。

 ピヨピヨと頭にひよこを浮かべたようにふらつくと、ばたんきゅー。

 倒れてしまった。


「き、きなこ!!」

「めぇーー!」


 羊は勝ち誇ったように一鳴き。

 すいーっとスライドして離れると、再び草を食べだした。


「だ、大丈夫かきなこ……?」

「ぴぃ……」


 ぐるぐると目を回しているきなこ。

 しばらくは休憩が必要そうだ。

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