第112話 氷と爆炎

「牧瀬さん、おはぎダンジョンの今後の展望は?」

「おはぎちゃん達との関係性について――」

「おはぎダンジョンを一般公開する予定は?」

「今回のレース開催の経緯をお聞きしたいのですが」


 おはぎダンジョンの中。

 丈二に向かって複数のカメラとマイクが向けられていた。

 モンスターレースについて取材にやって来たマスコミたちだ。

 彼らは濁流のように言葉を浴びせる。


「えーっと、質問は順番に……」


 丈二はそこそこの期間配信を続けてきて、カメラの前で喋る事には慣れてきた。

 しかし、こんな風にマイクを向けられて質問攻めにされるのは初めてだ。

 緊張から上手く口が回らない。

 どうしたものかと、冷や汗をかいていると。


「あぁ、ほらほら、離れろ!! 質問は俺にしろ。丈二さんは忙しいんだ。取材は時間が出来たらさせてやるから!!」


 取材陣の前に西馬が飛び出した。

 丈二を守るように立つ。

 西馬はテレビへの出演経験も豊富らしく、取材陣に対して堂々としている。


「丈二さんは行ってくれ」

「ありがとうございます。助かります」


 丈二はその場を離脱。

 マスコミへの対応は西馬に任せることにした。


「まさか、いきなり囲まれると思わなかったなぁ……」

「丈二さんも大変でしたねぇ」

「おぉ⁉ なんだ。刑部おさかべか……」


 いつの間にか丈二の隣に立っていたのは『刑部茶々おさかべちゃちゃ』。

 姫カットの女子高生だ。

 丈二のペットモンスター配信者仲間である。


「今日はありがとうな。テスト公開を手伝いに来てくれて」


 今日はモンスターレース本番に向けて、おはぎダンジョンのテスト公開を実施していた。

 やって来ているのは各社のマスコミと、レースに出場する選手たち。

 選手たちがやって来ているのは、コースの試走を兼ねているからだ。


「いえいえ、バイト代も貰ってますし、おはぎダンジョンにも来てみたかったですから!」


 おはぎダンジョンでの主な仕事は、犬猫族たちがやってくれる。

 しかし、やはり人手が欲しい所もあるので刑部にはバイトに来てもらっていた。


「ところで、もう他の選手たちの走りは見ましたか?」

「いや、まだ見れてないな……」

「じゃあ、ちょっと見学に行きませんか? 今なら私の解説付きですよ」

「それはありがたい。ぜひ教えてくれ」


 丈二と刑部はコースの近くに向かった。

 そこでは六匹のモンスターたちが待機している。


 二匹は見知った顔だ。

 お馴染みのきなこ。そして西馬が飼育しているゴールドラッシュ。


 残りは『角の生えたうさぎ』、『白いチーター』、『鋭い爪のイタチ』、『尻尾にジェットエンジンが付いたカンガルー』。


 それぞれのモンスターの近くには飼い主らしき人もいる。

 ちなみに、きなこの隣にはぜんざいと牛巻。

 ゴールドラッシュの隣には西馬の店の従業員が居た。


「お、最初に走るのは『アイスくん』みたいですね」


 犬族の案内に従って、白いチーターが動きだした。

 そのチーターの名前が『アイス』らしい。

 アイスはコースの中へ。


「最初からガッツリ走るわけじゃないんでしたっけ?」

「ああ、最初は慣らすために軽く走るはずだけど……」


 アイスは獲物を狙うように低く構える。

 ピー!!

 始まりのホイッスルとともに、ダッと走り出した。


「なんだアレ⁉ 氷か⁉」


 アイスが走り出した瞬間。その足元が凍りだす。

 そしてスケートのように氷上を疾走して行った。


「アイスくんは水を操るモンスターです。ああやって足元を凍らせて滑ったり、凍らせた水を一気に蒸発させて推進力を生みだしたりします」

「蒸発させて推進力……あそこからまだ早くなるのか……」


 アイスはそこそこの距離を走る――滑ると、コースから飛び出した。

 タッタッタと普通に走って飼い主の元に戻っていく。


「アイスくんは二番目の優勝候補ですね」

「あれで二番目か……一番目は?」

「一番は、あっ、ちょうど走るみたいですよ?」


 続いてコースに入ったのは、角の生えたウサギだ。

 犬くらいの大きさ。こげ茶色のふわふわとした毛におおわれている。


「あの子が優勝候補。『ダイナ』ちゃんですね」

「あの子が? ずいぶんと可愛らしいけど……」

「丈二さん、見た目で判断しちゃダメですよ。おはぎちゃんだって、可愛いけど恐ろしく強いじゃないですか」

「……確かにそうだ」


 ダイナは、ぽけっと遠くを見つめている。

 本当に走るつもりがあるのか、怪しく感じるほど気が抜けている。

 

 ピー!!

 ホイッスルが鳴った瞬間。


 ドカン!!

 爆発音が響いた。

 音の発生源はダイナの足元。えぐれた土が吹き飛んでいる。

 足元に爆炎を引き起こして、その勢いで走り出したのだ。


 ドカンドカンドカンドカン!!

 可愛い見た目とは裏腹に、暴力的な足音を響かせて走る。

 その速さも爆発的だ。

 一秒ほどでアイスと同じ距離を走り切る。


 丈二はごくりと息を飲んだ。


「とんでもなく速いな。そして管理者側としては、えぐれた地面の修復が大変だ……」

「速さよりもそっちに目が行っちゃうんですね……」


 『ほわぁー!!』とマンドラゴラの叫び声た聞こえた。

 目を向けると、隊長が抑えられていた。


 コースの修復は、土魔法が使えるマンドラゴラに任せてある。

 『余計な仕事を増やしやがって!』とキレているようだ。

 ダイナに殴り込みに行こうとしているのを、こわがりとねぼすけが止めている。


「……ちょっと向こうをなだめてくる」

「が、頑張ってください」


 一度キレだした隊長をなだめるのは大変だ。

 新しいコンポスターの購入で何とかなるだろうか。

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