第110話 闇のゲーム
「配信をご覧の皆さん、こんにちは。丈二です」
「ぐるぅ!」
丈二とおはぎは、おはぎダンジョンを歩いていた。
すぐ後ろには配信用のカメラが付いてきている。
来客者を受け入れるために、しっかりと道が整備されて石畳が敷かれている。
ずいぶんと歩きやすくなったものだ。
『おはぎダンジョンが発展してる!!』
『モンスターレースに合わせてインフラ整備してるらしいからね』
『オリンピックみたいな扱いだなwww』
「今日はサブレに呼び出されました。配信も回すように言われてるんですけど……なんでしょうね?」
『サブレからの呼び出し?』
『おやつの賃上げ交渉か?www』
『その辺は健康の問題もあるからなぁ……』
丈二たちが向かったのは、たいやきたちの温泉だ。
温泉の前には、立派な銭湯が建てられていた。
正面に飾られた看板には『たいやきの湯』と書かれている。
ここは来客者の休憩所として利用する予定だ。温泉も公開する。
すでにほぼ完成状態。いつでも公開可能だ。
『すげぇ⁉』
『いつの間にこんなの建ててたんだ……』
『実はおはぎダンジョンの発展を投稿してるサブチャンネルもあるよ』
『ジョージちゃんと宣伝しろよ⁉』
「あ、すいません。サブチャンネルの宣伝してませんでした。よろしくお願いします」
銭湯内は土足厳禁。
玄関で靴を脱いで、ロッカーにしまう。
鍵も付いているちゃんとしたヤツだ。専用の木札がカギ代わりになっているので、雰囲気も出ている。
右手側には畳が敷かれた広間。いくつもの長いテーブルが置かれている。
左手側には厨房。メニュー表なども掲載されている。犬猫族たちが運営している食堂だ。最近は犬猫族たちも、ここで食事を取っていることが多い。
そして正面には番台。長い毛におおわれた、猫族の長老が座っている。起きているのか寝ているのか分からない。
その両脇には『男』『女』と書かれた暖簾がかけられていた。
『ガチの銭湯じゃんwww』
『すげぇwww』
『俺も来てみたいんだが?!』
『おはぎダンジョンに行きてぇ!!』
「えーっと、サブレは……」
「丈二さん、こっちにゃ!」
広間からサブレの声がした。
探してみると、広間の奥にサブレが座っていた。
なぜか怪しい黒いローブを着込んでいる。
「丈二さん。僕の前に座るにゃ」
「なんだ? 急に呼び出して?」
「丈二さんには今から、闇のゲームを始めてもらうにゃ……」
「や、闇のゲーム……?」
サブレがぺちぺちと肉球を叩く。
……しかし何も起きなかった。
「あれ? ちょっと、持って来るにゃ!」
サブレが叫ぶと、食堂の方からお盆を持った猫族がやって来た。
シャム猫のような気が強そうな見た目だ。
頭にはコック帽をかぶっている。
「手を叩いた時点で持ってきて欲しいにゃ!」
「そんなもの聞こえなかったにゃ」
「まぁ、肉球のぺちぺち音じゃ聞こえないだろうな……」
『肉球ぺちぺち可愛いwww』
『なんだこれ、たこ焼きか?』
コック帽の猫族が持ってきたのはたこ焼きだ。
皿の上にいくつものたこ焼きが乗っているが、それぞれ見た目が違う。
「すごい種類のたこ焼きだな? これを食べれば良いのか?」
丈二がつまようじに手を伸ばす。
しかし、それを止めるようにサブレが手を伸ばした。
図らずもお手のような体勢だ。
「おっと、気を付けるにゃ。この中にはびっくりするほど辛いのが紛れてるにゃ」
「か、辛い!?」
「そうにゃ。闇のロシアンたこ焼きゲームにゃ!!」
どうやら、サブレはこの『闇のロシアンたこ焼きゲーム』がやりたくて呼び出したらしい。
サブレはどやりと得意げな顔をする。
「すべて僕が監修した、たこ焼きにゃ」
「作ったのは私だけどにゃん。サブレは口ばっかり出して手伝わなかったにゃん」
「ちょ、ちょっとは手伝ったにゃ!」
コック帽猫は呆れた目をサブレに向ける。
サブレは慌てたように言い訳していた。
なんとなく、二匹の関係が見えてくる。
『コック帽ちゃんは女の子かな?』
『見た目じゃ分からん』
『コック帽ちゃんツンデレ幼馴染感あって可愛いwww』
「ところで、これは辛いのを食べたらペナルティがあるのか?」
「特にないにゃ。ただ辛いだけにゃ」
「……サブレはバカだから本当に辛いですにゃん。気を付けたほうが良いですにゃん」
「そ、そうか……」
『どんだけ辛いんだwww』
『ジョージの運の見せ所だなwww』
そうして、丈二は闇のゲームに挑戦することになった。
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