第108話 案件バード

「よし、きなこ。練習した通りにやってみよう」

「ぴぃ!」


 おはぎダンジョンに、丈二ときなこが並んでいた。


 例のごとく並べられた三角コーン。

 丈二の掛け声と共に、きなこは走り出す。

 コーンから少し左に逸れた方向へ。


 バシュン!!

 雷を残しながら走り出すきなこ。


 しかし、途中で減速。

 ポテポテとよろめきながらストップ。

 くるりコーンの隙間に向き直る。


 バシュン!!

 また走り出す。


 ポテポテ。バシュン!! ポテポテ。バシュン!!


 加速と減速を繰り返しながら、三角コーンを縫うように走って行った。


「やっぱり、減速が苦手なんだなぁ」


 どうやら、きなこは魔法を使って一気に加速しているらしい。

 しかし減速する力はない。

 速度を落とすには、普通に足の力を使って止まるしかない。

 だが足の力は弱く、スムーズに止まるのは難しいようだ。


「ぴぃ!!」


 走り終わったきなこは、トテトテと丈二の元に走って来た。

 丈二はポケットから袋を取り出すと、ドライフルーツを取り出してきなこに差し出した。


「よしよし、その調子だぞ」

「ぴ!」


 まだ曲がるのは苦手だが、少しずつきなこも早くはなってきていた。

 この調子で特訓すれば、もっとスムーズになるかもしれない。


「だけど、今日はこれくらいで止めとこうか。あんまり頑張りすぎると足が痛くなっちゃうからな」

「ぴぃ?」


 『大丈夫だよ?』ときなこは体を傾けた。

 きなこ的には、まだ余裕があるようだ。

 だが、きなこは子供なのもあって疲れ知らずだ。丈二の方でしっかりと休ませた方が良いだろう。


「休むことも大事だからな、お家でぜんざいさんと昼寝でもしよう」

「ぴぃ!!」


 きなこはぜんざいにべったりではなくなった。

 だが、やっぱりぜんざいが大好きだ。

 一緒にお昼寝と聞いて、小さな羽を動かして喜んでいる。


「それじゃあ、行こうか」


 丈二はきなこを抱き上げる。

 ダンジョンの出口向かって歩いていると、向こうから西馬が歩いてくるのが見えた。


「お、練習は終わりか?」

「ええ、今日はきなこも頑張りましたから、なにか用事ですか?」

「そうなんだよ。丈二さんたちに良いニュースを届けに来たぜ」

「良いニュースですか?」


 西馬はニヤリと、得意気に笑った。


「きなこのスポンサーになりたいって企業が出てきたんだ」

「きなこのですか? モンスターレースのじゃなくて?」

「そうだ。きなこ個人のスポンサーだ。企業から金を貰う代わりに、レースに出場するときには企業ロゴの入った何かを身に着けて欲しいらしい」


 スポーツ選手やプロゲーマーが、企業のロゴが入ったユニフォームを着るような感じだろう。

 試合はネットテレビなどで放送される。

 試合最中にきなこが注目されたとき、企業ロゴの入った物を身に着けていれば、大きな宣伝効果が得られる。


「なんだか本格的になってきましたね……」


 丈二自身も動画投稿で食っている身。

 企業からの案件は何度も受けている。

 しかし、興行試合に出てスポンサーが付くとなると、なんだか不思議な感覚がする。


「ちなみに、スポンサーの名乗りをあげてるのは『ソニックバード』だ」

「おぉ! 大手の電機メーカーですよね?」

「そうだ。バードって社名で、きなこにシンパシー感じたらしいな」


 まさかの名前による繋がりである。

 西馬はスマホを取り出した。


「それとは別に案件動画も頼みたいような話だったぜ。まぁ、細かい話は当事者同士で……向こうに連絡先を教えても良いか?」

「はい。よろしくお願いします」

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