第105話 外部研修

 その後、丈二は牛巻から来客を告げられた。

 コース制作の現場は西馬に任せて、ダンジョンから出た。


「あ、半蔵さん。今日は来ていただいて、ありがとうございます」

「いえ、こちらこそ堪能させて頂いてます」


 丈二家の居間に、半蔵が座っていた。

 

 周囲を猫に取り囲まれている。

 膝の上だけでなく、なぜか頭の上にも白猫が乗っかっていた。


 半蔵は白猫を落とさないように、首を動かさずにお茶をすすっている。

 なんとも器用なことである。


「猫カフェのようです。ぜひ通いたい」

「まぁ、家で良ければいつでも来てください」

「週一で予約して良いですか?」

「予約とかはやってないんですけど……」


 真顔で繰り出される半蔵ジョークを受け流しながら、丈二は対面に座った。

 そこに牛巻が、お茶と羊羹ようかんを持ってくる。


「先輩、今日はどうして半蔵さんを呼んだんですか?」

「あれ、牛巻には話してなかったか……犬猫探索隊の修業の協力をしてもらうためだ」

「修行ですか?」


 牛巻が首をかしげる。

 それに丈二が答えた。


「ああ、犬猫探索隊はぜんざいさんに修業を付けてもらってただろ? 単純なフィジカルを鍛えるならそれで良いんだけど、技術的な部分が成長しにくくてな」


 技術とは、戦闘や探索における技術だ。

 剣術、弓術、隠密。

 そういった技術をより高度なレベルで学びたいと、犬猫探索隊から要望があった。


「ただ、俺が教えられるわけもないだろ?」

「先輩はただのおじさんですからね」

「そうだけど、うるせぇ」


 ぽこん。

 牛巻の頭にチョップを入れておく。


「ともかく、探索者の技術を教わるなら、探索者に教わったほうが良いと思ってな」


 丈二は半蔵を見る。

 半蔵は頭の上の猫を落とさないように、ゆっくりと頷いた。


「犬猫探索隊には、実際に探索者たちの活動に付いて来てもらい、実地で学んでもらうことになりました」


 探索者の人たちに協力してもらっての実地研修だ。


「特に信頼できる奴らに声をかけています。おおよそ好意的な反応で、犬猫探索隊との探索を楽しみにしています。なんなら金取れそうですよ?」


 犬猫を派遣してお金を取る。

 字面だけならただのペット派遣なのだが、彼らが話せることを考えるといかがわしい感じがする。


 牛巻が丈二の顔を見てきた。


「……ネコ活ですね」

「お金は取らないぞ?」


 丈二たちが話していると、おはぎダンジョンから黒色の猫族が出てきた。

 犬猫探索隊の偵察担当だ。


「あ、来てくれたか。こっちに上がってくれ」

「にゃん」


 黒猫は縁側から丈二家に上がると、丈二の隣に座った。


「半蔵さんにはこの子の教育をお願いしたいんです。無口な子なんですけど、基本的な会話は大丈夫なはずです」

「なるほど……」


 半蔵と黒猫が見つめあう。

 目線でやりとりとしているのだろうか。

 しばし、沈黙が続いた。


「よろしくにゃ」

「よろしく」


 一人と一匹は、ゆっくりと頷いた。

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