第104話 コース制作

 とんてんかん。

 おはぎダンジョンに、木を叩く音が響く。


「みんな頑張るにゃー。あとちょっとでおやつタイムだにゃー」

「わん!」

「やるにゃー」


 犬猫族たちが、杭を地面に打ち付けている。

 その杭からはロープが伸びて、レース用のコースを作り出していた。


 その様子を、丈二と西馬が眺めていた。


「こんなに簡易的なもので良いんですか?」

「ああ。正直言って、どれぐらい成功するかは分かんねぇからな。ダメでしたって時に、撤去しやすいようにしておきたい」


 西馬は悩ましそうに目を閉じた。


「テレビやスポンサーの食いつきは良い。だが二回目が開けるかは、どれくらい視聴者が付いてくれるかだ」


 見てくれる人が居なければ、テレビやスポンサーも出資してくれない。

 そうなれば二回目の開催は難しい。


「俺としては、国内では珍しいモンスターレースってこともあって注目されると思うんだが、俺もエンタメのプロってわけじゃねぇからな。結果は分からねぇ」


 不確定な未来を語る西馬。

 しかし、その様子に不安はない。

 むしろ、ニヤリと笑っていた。


 モンスターレースの開催にあたって、西馬は相当な時間とお金を使っているはずだ。

 失敗がノーリスクではないはずだが。


「不安とかは無いんですか?」

「あるぜ。だけど、立ち止まってちゃ何も変わらねぇ。前に進まなきゃ新しい景色はみれない。進む先が険しい荒野だったとしても、目指す場所がその先にあるなら俺は挑戦したい」


 そう語る西馬は、相変わらずの西部劇スタイル。

 格好だけでなく、生き方まで開拓者精神に溢れた男である。

 そんな生き方をしているから、コスプレをしても似合っているのかもしれない。


「俺には難しい生き方ですね……」

「良いじゃねぇか! 俺は丈二さんの、のんびりしたところ好きだぜ!!」


 西馬はバシバシと丈二の背中を叩く。

 ちょっと痛い。

 だが、嫌な気分ではない。


「ところで、本当にダンジョン開発用の資金を貰っちゃって良いんですか?」


 実は、丈二はコースを設営する以外にも資金を受け取っていた。

 ざっくりと言えば、ダンジョン開発資金。


 レースの開催にあたって、多くの関係者がおはぎダンジョンにやって来る。

 彼らを受け入れるための施設を作るための資金だ。


 作った施設は、そのままおはぎダンジョンの資産となる。

 まるっと西馬に出してもらうのもどうなのかと思ったのだが……。


「気にしないでくれ。どのみち必要なことだからな。俺もその分だけ、テレビやスポンサーの奴らから、ふんだくるつもりだ」

「……そんなに儲かるんですか?」

「ちょっと耳貸してくれ」


 西馬がごにょごにょと金額を言った。

 それを聞いて、丈二は目を見開く。


「そ、そんなにですか⁉」

「おう、俺の口八丁で向こうさんも興味津々だからな」


 西馬はニヤリと笑った。

 なんとも得意気な顔だった。

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