第103話 モンスターレース

「かぁー!! いい湯だなぁ。丈二さん!!」


 次の日。

 丈二はやって来た西馬と、おはぎダンジョンの温泉に入っていた。

 西馬は気持ちよさそうに腕を広げて、青い空を見上げる。


「丈二さんは毎日この温泉に入ってるんだろ?」

「はい。たいやきが入れてくれますから。こっちのほうが光熱費もかからないですし」

「羨ましいぜ!!」


 西馬は何か話があって来た。

 だが温泉に入りたいと言うので、どうせならと、こちらで話を聞くことにしたのだ。


「それで、お話とは?」

「そうそう、丈二さんは『モンスターレース』って知ってるか?」

「まぁ、テレビで見たことくらいはあります」


 モンスターレースは読んでそのまま。

 モンスターたちによるかけっこだ。

 以前、西馬のダンジョンにお邪魔した時に、ぜんざいとゴールドラッシュがやっていたようなものだ。


「それに出場しよう。みたいな話ですか?」

「いいや、違うぜ」


 西馬はニヤリと笑った。


「開催しようって話だ」

「えっ⁉ まさかの主催側ですか⁉」


 驚きだ。

 そもそも、レースの開催と言っても何をすれば良いのだろうか。

 困惑している丈二に、西馬が説明を始めてくれた。


「そもそも、日本じゃモンスターレースは盛り上がってない。法律と土地の関係で、レースの開催自体が難しいんだ」

「そういえば、俺が見たことのある映像も海外の物ばかりですね」

「そうだろう? アメリカみたいに国土がデカけりゃ、広い大地を疾走するモンスターの絵が撮れるんだけどなぁ」


 西馬はため息を吐いた。


「日本は山林が多いから、デカいモンスターは走りづらいし、安全性の問題もある。そうなると競馬場なんかを借りることになるが、向こうの人らに嫌がられるんだよなぁ」


 その業界には、その業界なりの予定があるのだ。

 よその興行に場所を貸している余裕もないのだろう。


「だが、それでも俺は国内でモンスターレースを盛んにさせたい。そのために、丈二さんたちに協力してもらいたいんだ」

「協力とは?」

「おはぎダンジョンでレースをやらせてくれ!!」

「あぁー、なるほど」


 おはぎダンジョンは、モンスターの増加にともなってグングンと大きくなっている。

 モンスターレスくらいなら、開催は出来るだろう。


「具体的に、俺たちの方でやることはなんでしょうか?」

「コースを仕切るためのロープ張り。それとレースに参加する選手とモンスター、そしてテレビ局員を入れて欲しい」

「え、テレビですか?」

「ああ、ネット番組に放映権を売るつもりだ。それとスポンサーを募って、そこから賞金に費用。そして丈二さんへの分け前を出す」

「なるほど……」


 西馬は大掛かりに開催する予定のようだ。

 モンスターレースについて熱く語っていた様子を見るに、西馬にとって夢のようなものなのだろう。


「分かりました。ご協力しましょう」

「本当か⁉」

「はい。西馬さんにはお世話になってますから」


 それに、丈二には断るほどの理由もない。

 ダンジョンに住んでいるモンスターたちにストレスがかからないように気を付ける必要はあるが、それくらいだ。

 ここは素直に恩返しをしておくべきだろう。


「ありがとう、丈二さん!! さっそく、この後から具体的に話を詰めても良いか⁉」

「了解です」

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