第102話 番にゃん

「どうして家が猫だらけになってるんだ……」


 丈二たちがダンジョンから帰ると、家が猫だらけになっていた。


「ぐるぅ?」

「みゃー」


 おはぎの体に、三毛猫がすりすりと体を擦り付けていた。

 あの三毛猫には覚えがある。

 たまに遊びに来ている猫だ。サブレに似ている。

 

 居間で寝転がっているぜんざい。

 その上は猫たちで大渋滞だ。

 猫たちのに囲われて、きなこが眠っている。


 丈二が困惑していると、台所から牛巻が出てきた。


「あ、先輩お疲れ様です。実は――」


 牛巻が事情を話してくれた。


「そうか、きなこが迷子になってたのか」


 牛巻たちも帰ってきて、なんとかぜんざいを乾かしたばかりらしい。

 丈二に連絡を入れている暇もなかったようだ。


「それを猫たちが助けてくれた」

「はい。助けてくれた猫ちゃん達を追い出すわけにもいかないですから……」

「確かになぁ。なんとか世話するしかないか」


 丈二は近くに居たサブレを見る。


「サブレ。猫族たちのほうで、猫たちの管理をお願いできるか?」

「にゃー」


 なぜかサブレは、猫のようにお腹を見せてごろごろしている。

 お腹を撫でて欲しいのだろうか。

 試しに撫でてみると、ごろごろと喉を鳴らしていた。


「そっちは僕じゃないにゃ!?」


 家の奥から、もう一匹のサブレが飛び出してきた。

 しっかりと二足歩行。手にはタブレット端末を持っている。

 お腹を撫でている方は、普通の猫だった。


「すまん。声をかけてから気づいたんだ……」

「もう、ちゃんと見分けがつくようにして欲しいにゃ!!」

「いやぁ、マジでそっくりだから厳しいかも」


 サブレの双子のことはさておき。

 丈二は話を戻す。


「それで、猫族の方でお願いできるか?」

「任せてくださいにゃ!! ちゃんと猫の飼育方法も検索済みですにゃ!」


 なんとも準備の良いことだ。

 とても頼もしい。


「それに、彼らに与える仕事も考えていますにゃ」

「仕事ってなんだ?」

「ズバリ!! 番にゃんですにゃ!」

「番にゃん……ってなんだ?」


 丈二は首をかしげた。

 番犬みたいなものだろうか。


「最近、丈二家の周りには不審者がうろついていますにゃ?」

「そうだな。有名になったせいか、変な奴らがうろついているんだよなぁ」

「そこで、猫たちに近所を巡回してもらって、あらかじめ不審者を見つけておくのですにゃ。首輪型のカメラを購入しておくと、もっと良いですにゃ」

「なるほど、移動できる監視カメラってことか!!」


 猫族たちなら、猫に擬態できるため同じことはできる。

 ただし、彼らは彼らで仕事がある。

 日中にそこら辺をふらついて、のんびりするわけにもいかない。


 猫たちにふらついてもらい、そのカメラを猫族がチェックするほうが効率が良いだろう。


「あ、でも他所の家とか覗かないように気をつけないとな」

「そこは頑張って教育しときますにゃ」


 大量の猫によって丈二家が占拠されていた時には驚いたが、こうして考えると来てくれてありがたい。


「よし、番にゃん部隊始動だな!」

「はいですにゃ!!」

「先輩。盛り上がってるところすいません」


 丈二たちがはしゃいでいると、牛巻が声をかけてきた。

 ノートパソコンの画面を指さしている。


「西馬さんからメールが来てますよ」

「西馬さんから?」


 西馬はカウシカが生息しているダンジョンを管理している人だ。

 西部劇みたいな恰好をしている、なんとも豪快なおじさんである。


「なんだか、商談があるらしいです」

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