第101話 雨上がり

「だぁー! 追いついたぁー」

「追いつきましたにゃぁー」


 橋の下に飛び込んできたのは、牛巻とサブレだ。

 二人とも体中がびしょびしょだ。

 はぁはぁと息を荒げている。

 走り出したぜんざいを、追いかけてきたせいだ。


「良かった……きなこちゃん無事だったんだね」

「焦りましたにゃー」


 牛巻は、ぜんざいに舐められているきなこを見る。

 ほっと胸をなでおろした。

 きなこが居なくなった時には焦ったが、ケガも無いようでなによりだ。


「にゃー」


 さらにやって来たのは普通の猫。

 先ほど、きなこを襲ったカラスを追い払った一匹だ。

 どっしりとした風格。野良猫のボスである。

 ちなみに、他の猫たちも無事だ。


「猫さんも、見つけてくれてありがとうございました」

「にゃー」

「お礼はおやつで良いそうですにゃ」


 きなこを素早く見つけれられたのは、主に野良猫たちのおかげだった。

 彼らの中には、サブレたちを訪ねて丈二家に顔を出すものも多い。

 きなこのことも覚えてくれていたため、一匹でふらふらしている姿を不思議に思ったらしい。


「にゃー」

「あと今後は丈二さんの家に住み着きたいそうですにゃ」

「うっ……お世話になったから断りづらい。ご近所さんに迷惑をかけないようにしてくれれば、先輩も了承してくれると思いますけど」


 おはぎダンジョンはまだまだ広い。

 さらに、モンスターの増加によって広がり続けている。

 野良猫の数匹程度が住み着いても問題はない。

 ダンジョンでトイレなどを済ませれば、近所に迷惑がかかることもないだろう。


「とりあえず、先輩には話してみますね」

「にゃー」

「さて、家に帰りたいんだけど」


 牛巻はきなこを見る。

 ぜんざいに出会って安心したのだろう。ぴーぴーと寝息を立てていた。

 早く連れて帰って、ゆっくりと寝かせてあげたいのだが。


「……しまった。傘を持ってきてない」


 急いで飛び出したせいで傘など持っていない。

 かといって、雨の中を走ればきなこまでずぶ濡れになってしまう。


「止んでくれないかなぁ」


 牛巻は空を見上げる。

 少しずつ雨が弱まっていた。


「通り雨ってやつですにゃ?」

「そうだったみたいだね」


 あっという間に雨は上がっていく。

 空を覆っていた黒い雲が過ぎていくと、太陽が顔を出した。

 土手沿いの草に、キラキラとした雨粒が輝いている。


 これで問題なく帰れる。


「よし、じゃあ帰ろうか!」


 牛巻はきなこを抱き上げる。

 さすがにびしょびしょのぜんざいの背中には乗せられない。


「がう」


 濡れたぜんざいたちは、丈二家へと帰って行った。


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