第99話 消失

 きなこがやって来てから数日後。

 ぜんざいときなこは、午後ののんびりとした時間を過ごしていた。

 丈二家の庭ではきなこが走り回り、ぜんざいはぼんやりとテレビを眺める。


 ちなみに丈二は留守である。

 犬猫探索隊と共に、ダンジョン配信に行っていた。


「ぴぴぴび!!」

「がう」


 丈二家の門から飛び出そうとするきなこ。

 それをぜんざいが咥えた。

 家の敷地に戻す。


「がるぅ」


 『外に出てはいけない』ぜんざいはゆっくりと首を振った。


 きなこは少しずつ成長して、ぜんざいにべったりとくっ付いていた時期は終わってしまった。

 代わりに、いろいろな物へ興味を持ちだした。

 それ自体は良いことだ。


 しかし丈二家の外は、きなこにはまだ危ない。

 もうしばらくは、家の中で過ごすべきだろう。


「ぴぃ? ぴぴ!!」


 『分かった!!』きなこは庭へと走って行った。

 ぜんざいもその後を追いかける。


「がう」


 『昼寝でもしよう』ぜんざいはきなこを咥えると、家の中へと入れた。

 ぺろぺろと毛づくろいをしてやると、すぐに寝息を立て始める。


 少し成長したが、まだまだ子供だ。

 ぜんざいも一緒に昼寝をしようかと思った時だった。

 ぴくり。ぜんざいは耳を動かす。


「……がう!」

「はーい。もしかして、またですか?」


 ぜんざいが吠えると、家の奥から牛巻が出てきた。


「がう」

「うへぇ……さっさと終わらせましょうか」


 ぜんざいが頷くと、牛巻は嫌そうに顔を歪めた。


 そして、ぜんざいは牛巻と共に家の裏手へと向かった。

 そこに居たのは。


「うおぉ!? バレてる!?」


 怪しい男。

 サングラスとマスクを付けて、顔を隠していた。

 ちょうど裏のへいを乗り越えて、丈二家へと侵入していた。


「ガルゥ!!」


 男に飛び掛かるぜんざい。

 その巨体で押しつぶし、身動きが取れないようにする。


「ど、退けよ!! クソ犬!!」

「はいはい。もう通報してますからねぇ」


 牛巻はスマホを操作。

 即通報だ。

 警察との会話はスムーズに終わる。


「分かりました。よろしくお願いします。……近くをパトロールしてるので、すぐに来るそうです」


 似たようなことは何度か起きている。

 警察もパトロールを強化しているらしい。


「け、警察は止めてくれよ!! 俺はただ、家の中やダンジョンを調べてこいって、SNSで仕事を受けただけで!!」

「それだけでも、立派な不法侵入じゃないですか。言い訳は警察でどうぞ」

「ちくしょお!!」


 数分ほどで警察はやって来た。

 警察に侵入者を引き渡し、軽い聴取の後にぜんざいたちは居間へと戻る。


「ドコの誰が送って来てるのか分からないですけど、止めて欲しいですよね……」

「がう」


 ぜんざいは同意するように頷く。


 そして居間に戻ってすぐ、ぜんざいは違和感を覚えた。

 何かが足りない。


「……がう⁉」


 『きなこが居ない!?』ぜんざいは慌てて部屋を見回す。

 先ほどまで眠っていたはずのきなこ。その姿が消えていた。

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