第98話 寝かしつけ

「ぜんざいさん。今日はお疲れ様でした」

「がう」


 配信を終えた夜。

 丈二たちは寝室に布団を引き、寝る直前。

 すでに夜も更けて、静かな夜。

 とはなっていない。


「ぴぴぴぴぴ!」


 きなこがパタパタと走り回っている。

 まだ遊び足りないのだろうか。


「どれだけ体力があるんだ……」


 丈二も驚きだ。


「ぐるるぅ♪」


 もう一匹のちびすけ。

 おはぎの方はリラックスをする体勢。

 丈二の膝の上に乗って、ぐるぐると喉を鳴らしていた。


「ぴぃ!」

「ぐるるぅ……」


 きなこが遊びに誘ってくる。

 しかし、おはぎはゆっくりと首を振った。

 もう遊ぶ気分ではないらしい。


「また明日、遊ぼうな」

「ぴぃ……」

「がう」


 ぜんざいがきなこを咥えると、自身のお腹の方に持っていく。

 ぺろぺろときなこの丸い体を毛づくろい。


「ぴ……ぴぃ……」


 毛づくろいが気持ち良いのだろうか。

 きなこはウトウトと体を揺らす。

 小さな瞳が閉じられていく。


 こてん。

 きなこは転がると、そのまま眠ってしまった。


「羨ましいほどの寝つきの良さだ……」


 ぜんざいの横ですやすやと眠っている。

 その姿は本当の親子のよう。

 とは、さすがに言えないが、二匹の中の良さが見て取れる。


「ぜんざいさん。きなこの相手をしててどうでしたか?」

「ぐるる」


 『子供は大変だ』ぜんざいは首を振った。

 やはり、ぜんざいは子育てが嫌なのだろうか。

 一瞬だけ丈二はそう思ったが、違うらしい。

 ぜんざいがきなこを見る目は、優しさに満ちていた。


「がう」


 『だが、これも良い経験かもしれない』ぜんざいは前足を使って、きなこを寄せた。 


「じゃあ、明日からも大丈夫そうでしょうか?」

「がう」


 『問題ない』そう言ったぜんざいは、なんとも頼もしい顔をしていた。

 自信に満ちた親の顔だ。

 子育てへの不安は解消されたらしい。


「良かった。それじゃあ、明日からは犬猫族たちに手を借りて、きなこのお世話をお願いします」

「がう」


 ぜんざいはしっかりと頷く。

 

 これできなこの子育ては、ぜんざいに任せれば安心。

 いや、一つだけ不安なことがあった。


「あの、ぜんざいさん。もしもの時のために担当する犬猫族にはドライフルーツを渡しておきますが……ぜんざいさんが食べつくさないでくださいね?」

「が、がう……」


 『そんなことはしない』ぜんざいは目を逸らしていた。

 ちょっとだけ食べようと思っていたのかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る