第97話 温泉会議

 見回りを終えた後は、ぜんざいのお楽しみ。

 お風呂タイムだ。


「ぐるぅぁー」


 温泉にて息を吐き出すぜんざい。

 まさに仕事終わりのおっさんだ。


「お疲れ様です。今日はきなこの世話もありましたからね」


『うちの親父みたいだwww』

『ぜんざいさんお疲れー!』

『世の親御さんたちの苦労を、少しだけ理解できたわ』


 一方のきなこは元気なものだ。


「ぴぃぴぃ!」

「ぐるぅ!」

「きゅおーん」


 どらやきが背中から噴き出すお湯しぶき。

 それを浴びて、おはぎときなこは走り回っている。


「子供たちは元気だなぁ。水浴びみたいで楽しいんだろうか」


『子供たちは何しても楽しんでるよなぁ』

『夏場の噴水とか子供凄いからなwww』

『俺も子供のころは何でも楽しめたのになぁ……』

『今からでも楽しめるだろ! もっと熱くなれよ!』

『いやいや、大人一人が噴水で遊んでるのはヤバいやろ』

『誰も噴水で遊べとは言ってねぇよwww』


 一方の大人組。

 ぜんざいとたいやきが、温泉に浸かって何やら話していた。


「がう、がうぅ」

「キュオォン」


 どうやら『子育て』について話しているらしい。


「なんか、お母さんの井戸端会議感があるな……」


『狼おじさんの井戸端会議……?』

『ジョージも混ざってこいwww』

『たしかに、おはぎちゃん育ててるしなwww』


 混ざってこいと言われたが、丈二には無理だ。


「いや、この時間の温泉はめっちゃ熱いんですよ。ぜんざいさん用カスタムなので。人間が入るにはきついです……」


 ぜんざいは熱めのお湯が好き。

 丈二にはキツイ温度設定をされている。


『おじいちゃんかな?www』

『まぁ、おじいちゃんではあるやろ』

『モンスターだけあって、頑丈なんだろうなぁ』

『ぜんざいたちの会話が気になるなぁ』


 コメントで会話が気になると言われた。

 しかし、丈二も具体的な会話内容までは分からない。

 なんとなくの意思が伝わって来るだけだ。


「すいません。具体的な翻訳は難し――」

「ちゃちゃちゃちゃん!!」

「僕らにお任せにゃ!」


 カメラの前に猫族たちが飛び出してきた。

 なぜか、白いひげのおじいさんと、紫パーマおばさんのコスプレをしている。

 ちなみに、白いひげの方はサブレだ。


「子育てと言うのは大変だな……」

「まぁ、ぜんざい様にも苦手なことがあるのですね?」

「無論だとも。我はずっと狩猟に身を捧げていた。子供はもちろん、仲間だって居なかった」

「ぜんざい様らしい、益荒男の生き方ですわね」

「ああ、だが何の因果だろうな。今では子供たちに囲まれて、まさか『あやつ等』のこ――」


 どうやら、ぜんざいたちの会話を翻訳しているらしい。


「なぁ、それって本当に内容は合ってるのか?」

「おそらく、たぶん大体こんな感じだと思いますにゃ?」

「なんか、いまいち信用し辛い言い回しだなぁ」


『なんの寸劇だwww』

『たいやきさん、そんなお嬢様みたいな喋り方なの?』

『ぜんざいさんはそれっぽいのにwww』

『なんで大阪のおばちゃんみたいな恰好でその喋り方なんだwww』


 まぁ、見てて面白いので続けて貰おう。

 丈二は続きを促した。


「だが子育ても悪くはない。始めは気乗りしなかったが、敗北して隠居した老体には丁度いい刺激になる」

「あら、隠居だなんて、まだ早いのではなくて?」

「いいや。無様に敗北してせかいじ――」


 そこで猫族たちの寸劇は止まってしまった。

 なぜならば。


「……めっちゃ見られてるな」

「そう、ですにゃ」


 ぜんざいたちが、ジッと丈二たちを見つめている。

 話を翻訳していたことに気づいたのだろうか。


「がう」


 ぜんざいが短く鳴くと、たいやきの背中から水しぶきが飛んだ。

 丈二たちに向かって真っすぐと。

 どらやきたちが遊んでいるような、ぬるま湯じゃない。

 熱湯だ。


「あっつ!? あっつい!」

「うぎゃー!?」


 熱湯が止むと、たいやきはツンとした様子で鳴いた。


「きゅおーん」

「盗み聞きは行儀が悪いですわ。だそうですにゃ……」

「これ以上は止めておくか」


『まぁ、盗み聞きは良くないわなwww』

『たいやきさんのツンとした感じが良い……』

『クジラのケモナーっているんだ……』

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