第96話 畑のカミナリ親父

 お昼休憩をはさんだ後。

 ぜんざいたちはダンジョンの見回りをしていた。


「ぴぃぴぃ!」

「ぐるぅ!」


 畑のあぜ道を走る、おはぎときなこ。

 その後ろを丈二とぜんざいが、のんびりと歩ていた。


『畑も立派に実ってるなぁ』

『ジョージ農園!』

『農園はマンドラゴラたちのものだぞwww』

『これ丈二たちだけで消費してるんろうか?』


「大半はモンスターたちが食べますね。ぜんざいさんが大食いですから」

「がう」


 ぜんざいが誇らしげに鳴いていた。

 誇る部分なのだろうか。


「あるていどは西馬さんが買い取ってくれますね。カウシカたちにあげてるのですが、実は西馬さんのお店でも使ってくれてるんです」


 西馬はカウシカたちか生息しているダンジョンの管理者。

 同時にちょっとした飲食店も営んでいる。

 そこで、おはぎダンジョンの野菜を使ってくれていた。


「評判いいみたいなので、ぜひ行ってみてください」


 西馬には、ちょこちょこお世話になっている。

 丈二はさりげなく宣伝もしておいた。


『今度行ってみようかなぁ』

『あの西部劇みたいな店だよなwww』

『西部劇ってなんだwww』

『行けばわかるさ』


 丈二が宣伝をしていると、きなこが畑の方に興味を示していた。

 何かをジッと観察している。


「ぴっ!」

「あ、勝手に入っちゃダメだぞ!」


 きなこは畑に飛び込むと、ちょんちょんと畑をほじくり返す。

 そこから出てきたのはミミズだ。

 うねうねとしたそいつをきなこは飲み込んでしまう。


「ほわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!??」

「あ、やばい!?」


 畑の反対側から、選挙カーよりもうるさい声が飛んでくる。

 ズダダダ!!

 あぜ道を爆走してくるのはマンドラゴラ。

 あの強気な態度は『隊長』だ。


「ぴ、ぴぃ?」

「ほわぁぁ!!」


 『なんでミミズを食べるんだ!!』隊長は畑を荒らされたことにお怒りだ。

 ミミズと言えば畑の友だち。

 その量もマンドラゴラたちが管理しているらしい。

 それを食べられたことにご立腹だ。


「ミミズを食べたことを怒ってるみたいです。この子は怒りだすと迫力が凄いんですよね……」


『急に走って来るからびっくりしたわwww』

『農場管理者さん激おこwww』


 隊長はカウシカのボス相手にも怒っていたように、強者に怯まない。

 そして、同じように弱者にも容赦はない。

 たとえ子供相手でも全力で怒れるタイプだ。


「隊長ごめんな。俺がちゃんと見てなかったから――」

「ほわぁぁぁ!!」


 『当たり前だ!』隊長はきなこ以上に丈二に怒っているらしい。

 子供の監督不足。

 隊長もそのことは分かっているらしい。


「……ごめんなさい」

「がるぅ」

「ぴぃ」

「ほわぁ! ほわほわぁ!」


 大人しく謝っておく丈二たち。

 こうなっては、隊長の機嫌が収まるまで待つしかない。


『おっさんとデカい狼が大根に説教をされている図www』

『マンドラゴラの声がデケェ⁉』

『音量下げたわwww』

『うん? 何も聞こえないが?』

『鼓膜破れてますよwww』


 少しの間、大人しく説教を受けていると。


「ほわぁー?」

「ほ、ほわ」


 マンドラゴラの『ねぼすけ』と『こわがり』がやって来た。

 もう良いだろうと隊長を説得しているらしい。


「ほわぁ!? ほわほわ!! ほわぁ――⁉」

「ほわほわ」

「ほ、ほわわぁ」


 しかし説教を続けようとした隊長。

 のんびりとこわがりは、その両腕を掴んでズルズルと引きずって行った。


「ほわぁぁぁ!!」


『コントかな?www』

『トリオ芸人www』

『キレ芸が上手いわwww』


 マンドラゴラは去ったのだが、きなこはプルプルと震えていた。

 生まれて初めて怒られてびっくりしたらしい。


「きなこ、畑は勝手に入ると怖いから、気を付けような……」

「ぴ、ぴぃ……」


 慰めるためにドライフルーツを差し出すと、ちょんちょんとついばんだ。

 いつもより少しだけ、しょっぱい味かもしれない。

 ちょっと大人になったきなこだった。

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