第95話 映り込みはヤバい

 訓練の時間が終わると、ぜんざいは丈二家に戻る。

 ドサリとテレビの前に倒れると、爪を使って器用にリモコンを操作した。


 ぜんざいのお腹の上には、ちょんときなこが乗っかる。

 一緒にテレビを眺めていた。


『すげぇwww』

『器用だなぁwww』

『犬がニュースを見る時代かぁ……』


 ぜんざいが見ているのは、バラエティ寄りの情報番組。

 お気に入りはグルメコーナー。


 のんきにその様子を眺めていた丈二。

 その肩が乱暴に叩かれた。

 後ろを振り向くと牛巻。焦った様子でテレビを指さしている。


「先輩! テレビの音を取り込んじゃってますよ!」

「あ、そうか。著作権がヤバい!」


 カメラの画角的に、映像は映っていない。

 しかし、音声はバッチリと取り込んでしまっている。

 音声を配信で流したら、著作権に引っかかる。


 慌てて、丈二はリモコンを操作。

 テレビの音声をストップした。


「これを使ってください」

「なんだこれ、スピーカーか?」

「超指向性スピーカーです。ぜんざいさんにだけ、音が聞こえるようにできます」


 さっそくスピーカーをセット。

 音を戻してみるが、配信には取り込んでいない。

 ぜんざいの位置なら、しっかりと音が聞こえる。


『超指向性スピーカーってなに?』

『限られた範囲にだけ音を届けられるスピーカー。魔法も使ってるから、マジで音が漏れない』

『結構な値段するんだよなぁ。配信者とかだと、持ってる人も多いけど』


 配信者なら持っている。

 そのコメントを見て、丈二は納得。


(牛巻がVTuber時代に買ったやつなのか)


 牛巻はVTuber活動をしていた。

 配信のために機材を買いあさっている話を聞いたことがある。

 その時の遺産だろう。


『待て、スピーカー渡したの誰だ?』

『そうだ。女の子の声が聞こえたぞ!? 可愛い感じの!』

『ジョージ……お前だけは信じてたのに……』

『裏切り者!!』


 一部のコメントが荒れていた。

 丈二は苦笑いで受け流す。


「ま、まぁまぁ、俺のことは良いですから!」


『逃げたなwww』

『逃げるな! 卑怯者!!』

『説明責任を果たせ!』

『どんだけジョージの恋愛事情が気になるんだよwww』


 丈二が画面外にはけると、コメントも落ち着いてくる。


 ちょうどその頃、テレビを見ていたぜんざいたちにも動きがあった。


 テレビでは果樹園に取材に行っているらしい。

 画面に美味しそうなさくらんぼが映っている。


「ぴぃ!」


 それに向かって、きなこが突撃していった。

 食べようと思ったのだろうか、画面を突いている。


 当たり前だが食べられない。

 きなこは不思議そうに首をかしげている。


「きなこぉー。それは食べられないぞ」


『小さいからテレビが分からないかwww』

『めっちゃ食べたそうwww』


「がう」


 ぜんざいはきなこをくわえる。

 テレビの前に陣取られるのが邪魔だったらしい。

 自分のお腹に向けて、ぽいと放り投げた。


「ぴぃ……」


 きなこは羨ましそうに、テレビのサクランボを眺めている。

 それを見て、丈二は思い出した。


「あれ、サクランボ無かったっけ?」

「ありますよ。取ってきますね」


 少し待つと、牛巻が種を取り除いたサクランボを持ってきてくれた。

 ストローを使って、キレイに取ってくれたらしい。

 丈二はそれをきなこに差し出す。


「ぴぃ!」


 きなこは、サクランボをちょんちょんとついばむ。


「おはぎも食べるか?」

「ぐるぅ!」


 庭でボール遊びをしていたおはぎが駆け寄って来た。

 おはぎにもサクランボを差し出す。

 あむあむと食べだした。


「がう」

「ぜんざいさんもですね。あんまり量はありませんけど」


 丈二がサクランボを投げると、ぜんざいは上手く口でキャッチする。

 ぜんざいの口には小さすぎるが、いちおう味は分かるらしい。

 満足そうに目を細めていた。


『突然のおやつタイムwww』

『ぜんざいさんの口に対して、サクランボが小さすぎるwww』

『ちなみにサクランボの種には毒性があるから気を付けてな。多少は問題ないけど、人間も食べない方がええで!!』

『サクランボの種は食わんやろwww』

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