第94話 ぶつかり稽古

「今日はぜんざいさんの一日に密着しようと思います。きなこの様子を見る必要もあるので」


『きなこぜんざい特集』

『スイーツ雑誌かな?www』

『ワイぜんざい推し歓喜』


 散歩を終えて、朝ごはんを食べた後。

 配信を始めた丈二たち。

 とりあえず、きなこの様子を見る必要もあるので、ぜんざいに密着だ。


「この時間、ぜんざいさんは牛舎に行くんですよ」


 丈二の前を歩くぜんざい。

 その後ろを、ちょこちょこときなこが追いかけている。


「がう!」


 牛舎の前に到着すると、ぜんざいが吠える。

 その呼びかけに反応して、牛舎から子供カウシカが出てきた。


『配信で出るのは久しぶりかな?』

『そういえば、カウシカには名前付いてないの?』


「そういえば、カウシカの名前を言ってませんでしたね……あの子は『カフェ』って呼んでます。カフェオレから取りました」


『ジョージにしてはちょっと洒落てるの草』

『いうほどオシャレか?www』

『カフェオレのカフェって、それただのコーヒー……』


「もぅ?」


 カフェがきなこを見て不思議そうにしている。

 初めて見る顔に戸惑っているのだろう。


「がうぅー」

「ぴぴ!」


 ぜんざいがきなこの事を紹介。

 きなこは元気に返事をしていた。


 紹介が終わったぜんざいたちが、広い場所に移動する。


「ぜんざいさんは、カフェの鍛錬をしてあげてるんですよ。立派な群れのボスになるために、頑張っているようです」


 カフェは勢いを付けて、ぜんざいに突進。

 しかしまだまだ子牛。ぜんざいとの体格差も凄い。

 ドスン!

 ぶつかってもぜんざいはびくともしない。


『ぶつかり稽古かwww』

『人間が食らったらヤバそう……』

『坂道を爆走する自転車くらいの威力がありそう』

『全く動じないぜんざいさんも凄いなwww』

『眺めてるきなこちゃんも可愛い!』


 きなこは丈二の腕の中。

 ぶつかるカフェを見つめている。

 メトロノームのように、首を動かしていた。

 しかし、なにを思ったのか。


「ぴぃ!!」

「うぉ⁉」


 きなこにしては勇ましく鳴くと、丈二の腕の中から飛び出す。

 ぜんざいに向かって走り出した。

 バチバチと雷の軌跡を残している。相変わらず凄いスピードだ。


 もふん!

 ぜんざいの毛にぶつかると、ふわりと押し返されてしまう。

 ころりと地面に転がった。


「がう」


 『危ないから離れてなさい』ぜんざいは前足を使って、きなこを転がす。

 ころころと丈二の方に転がって来た。


『丸いからよく転がるなwww』

『文字通りに毛玉だからなぁwww』


「ぴぃ!」


 しかし、きなこは嫌なようだ。

 バタバタと立ち上がると、再びぜんざいに向かって突撃準備。


「ほーら、きなこ。こっちでおやつでも食べようなぁー」

「ぴ⁉ ぴぴぴ!」


 丈二が懐からドライフルーツを取り出す。

 鳥用のおやつだ。

 近くのペットショップで買ってきた。一度あげたら、気に入ったらしい。


 きなこは丈二に向かって飛び掛かった。

 丈二は上手くキャッチ。

 腕の中に収める。


「はい。おやつだ」

「ぴぃ!」


 丈二が手のひらに乗せたドライフルーツ。

 きなこはチョンチョンとついばむ。 


「がう」

「もぉー!」


 その様子を確認して、ぜんざいたちは再び稽古を始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る