第93話 イクメン?

「ぐるぅ……」

「ぴぃ……」


 晩御飯も食べ終わった後。

 おはぎときなこは、ぜんざいのお腹の上で寝息を立てていた。


「遊び疲れちゃったんですね」


 牛巻がニコニコと二匹を眺める。

 丈二も同じような目をしていた。


「大はしゃぎだったからなぁ。体格も近い分、遊びやすいだろうし」

「おはぎちゃんにもいい友達ができましたね」

「そうだな。そのうち、子供モンスターたちを集めて遊ばせるのも良いかもなぁ」

「子供の成長は早いですからね。しっかりと記録に残しておきましょう!」 


 和やかな雰囲気の居間。

 しかし、一匹だけどんよりとした空気をまとっている。


「がう……」


 それはぜんざいだ。

 街ぶらグルメ番組を、死んだような目で見つめていた。


「それにしても落ち込んでますね……」

「いつもなら、ステーキとか出たら尻尾ブンブンなのにな……」

「そんなに嫌なんですかね?」


 たしかに、不思議だ。

 ぜんざいは子供の相手を、そこそこしている。

 おはぎはもちろん。子牛の稽古、風呂場ではどらやきの相手をすることもある。


 きなこの世話だって、基本的には丈二たちがやる。

 ぜんざいの重荷にはならないはずだ。


「……がう」


 『これから、ずっと付きまとわれるのだろう?』ぜんざいは投げやりに鳴いた。

 どうやら、これからの生活に不安があるらしい。


「パタニティ・ブルーってやつなのか?」


 子供が生まれた時。

 親は子供への責任感や、変化する生活に不安を感じて、心理状況が不安定になる場合がある。

 それを起こしているのかもしれない。


「……狼もなるものなんですか?」

「さぁ……? 現に落ち込んでるし……」


 ともかく、ぜんざいのストレスにならないように、丈二たちがサポートするしかないだろう。


「まぁ、ぜんざいさん。落ち込まないでください」


 丈二はポンポンとぜんざいの背中を撫でた。


「俺たちもサポートしますし、きなこだって一生ぜんざいさんに付いて行くわけじゃないんですから」

「ひよこなら、早ければ一か月ほどで親から離れるみたいですよ。一か月の辛抱です!」


 スマホを見つめる牛巻が励ましていた。


(まぁ、ひよこと同じような生態である保証はないんだけど……)


 もっと早いかもしれないし、遅いかもしれない。

 それは育ってみないと分からない。


「がう」


 ぜんざいはしぶしぶと言った様子で、頷いていた。



  ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 翌朝。

 丈二たちは、朝の散歩をすることが日課になっている。

 ぜんざいに起こされて準備をすると、丈二たちはおはぎダンジョンに向かった。


 以前は近所を散歩していた。

 だが現在は、ダンジョンが広くなったのでダンジョン内を散歩している。


 ぜんざいの背中に寒天が乗っかる。

 その上に、おはぎときなこを乗せた。

 二匹ともまだ寝ぼけ眼だ。ぼんやりと遠くを眺めている。


「なんか、幼稚園バスみたいだな……」


 ぜんざいの背中には二匹の子供たち。

 そのうちモンスター幼稚園が出来上がるかもしれない。


「行きましょうか」

「がう」


 丈二たちはダンジョンの川沿いを歩いていく。

 いつもと変わらない散歩コースだ。


 近くには田んぼや畑が広がっている。

 早起きな犬猫族たちが、のんびりと畑作業をしていた。

 どこからか『ほわぁ!』と声が聞こえてくる。


 ある程度進むと折り返しだ。

 この辺りでおはぎは意識がはっきりしてくる。


「ぐるぅ!」

「ぴぃ!」


 おはぎときなこが、ぜんざいの背中から飛び降りた。

 二匹は楽しそうに川へと近づいていく。


 澄んだ川の水をぺろぺろと飲みだすおはぎ。

 それを真似して、きなこも水をついばんだ。

 寝起きの水。実に健康的だ。


「ぴ……ぴぃ⁉」

「あぶな――!」


 しかし、きなこはまだ寝ぼけていたらしい。

 目を閉じると、ふらりと体勢を崩した。


 丈二もとっさに手を伸ばしたが間に合わない。

 そのまま川に突っ込む――。


「がう」


 その前に、ぜんざいがきなこをくわえた。

 おはぎの隣に戻すと、何事も無かったように後ろ足で頭をかいていた。


「さりげなく子供を見ているとは、ぜんざいさんはイクメンの才能があるのかも……」


 何とかなりそうで、安心する丈二だった。

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