第92話 サンダーバード

「ほーら、食パンだぞー?」

「ぴ、ぴぴぴ!」


 丈二はちぎった食パンをひよこに差し出す。

 器用に食パンをついばんでいた。


「まさかモンスターが生まれてくるとは思わなかった……」

「勢いだけで取りに行ったから、失念してましたにゃあ……」


 丈二とサブレががっくりとしている。

 危うくひよこを茹でてしまう所だった。

 いや、実際に茹でていたのだが……上手いこと生まれてくれて良かった……。


『グロ画像みたいになるとこだったな……』

『まぁ、実際にそういう料理あるしね?』

『あれを自分で食うのは罪悪感がヤバそうだよなぁ……』


「がうう……」


 食パンを食べているひよこ。

 今のうちにと、ぜんざいが逃げ出そうとする。


「ぴ⁉ ぴぴぴ!!」


 しかし、ひよこは食パンをそっちのけで、ぜんざいを追いかけた。

 その足元に潜り込んで、一緒に歩こうとする。


「が、がう⁉」

「あぁ、やっぱりぜんざいさんを親認定してるみたいですね」

「諦めるしかないですにゃ」


『我先に食べようとしてたのにwww』

『ぜんざいがパパになるんだよ!!』

『ぜんざいさんの子育て日記。始まります』

『勝手に始めるなwww』


 ぜんざいは諦めて丈二たちの元に戻って来る。

 どさりと倒れこんだ。


「なんか、やけくそだなぁ……」

「ふて寝感が凄いですにゃ」


 ぜんざいのお腹の上にひよこが乗ったので、再び食パンを与えた。


 食パンを食べ終わったひよこ。

 自身の毛をついばみ始めた。毛づくろいだ。


『ひよこも可愛いなぁ』

『ふわふわしてて良いよな!』


「ぐるぅ?」

「ぴ?」


 おはぎがひよこに近づいた。

 さっそく挨拶をしているらしい。


「ぐるぅ!!」


 おはぎが走り出した。

 追いかけっこにでも誘っているのだろうか。


「ぴぴ!!」


 ひよこが鳴くと。

 シュバン!!

 稲妻を走らせながら、ひよこが高速移動した。


「うえぇ!? 早すぎないか⁉」

「将来有望ですにゃ……」


 しかし、まだ上手く動けないらしい。

 ガクン! ガクン!

 直角に移動していて、小回りを活かすおはぎに追いつけていない。


『子供の追いかけっこにしてはレベルが高すぎない……?』

『おはぎちゃん頑張れー』

『というか、ぜんざいさんの毛がwww』


 一方で、ぜんざいの毛は静電気で逆立っていた。

 迷惑そうにしていたので、丈二がそっと手櫛をかけておく。


「ところで、ひよこは何ていうモンスターなんだ?」

「うーん。写真を撮って画像検索しても引っかかりませんにゃあ……」


『やっぱり新種か⁉』

『雷を出してたよなぁ……』

『とりあえず、サンダーバードと名付けよう』

『そういえば、ひよこの名前はどうするの?』


 ひよこの名前を聞かれてしまった。


「どうしようか……『サブレ』はもう居るからなぁ」

「僕の名前を使うなら使用料がかかりますにゃ。おやつ日に一本ですにゃ!」


『おやつで名前被っても良いのかwww』

『高いのか安いのか分からんなwww』


「じゃあ……『きなこ』とかにするかな。ぜんざいと味の相性が良さそうだし」


『きなこぜんざいwww』

『いつものジョージセンスwww』


 走り回っているおはぎときなこを眺めながら。

 その日の配信は終わった。

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