第91話 すりこみ

「今日は昨日取って来た卵を、ゆで卵にしていきたいと思います」


『キター!!』

『あのデカい卵かぁ。どうなるんやろか?』


 丈二は太いヒモで卵を縛る。

 たいやきに準備してもらった温泉に漬けた。

 ヒモには重りを付けているので、無駄に浮かんでは来ない。


「大きいので、一時間くらいは茹でておきましょうか。それまでの様子は配信に映しておきましょう」


 丈二は卵が見える位置にカメラを固定。卵だけでなく、温泉全体が見渡せるように設置。

 温泉ではたいやきがのんびりとしていた。

 たいやきの隣では、どらやきがパシャパシャと遊んでいる。


「きゅおーん?」

「どうした? 遊んで欲しいのか?」

「きゅおん!」

「ここだと卵が危ないから、あっちで遊ぼうな」


 丈二とどらやきは、卵とは反対側に移動。

 近くに居た猫族に頼んで、ビーチボールを持ってきてもらった。


「よし、ボールを投げるから返してくれよ?」

「きゅおん!」

「それ!」


 丈二がボールを投げる。

 どらやきは器用に頭をぶつけて、丈二に跳ね返した。


『上手い!』

『イルカショーみたいなのもできそうwww』

『どらやきショー見てみたい!!』


「上手だなぁ。もう一回行くぞ?」

「きゅおん!」


 そうして何度か遊んでいると。


「ぐるぅ!」

「お、おはぎも一緒に遊ぶか?」


 やって来たおはぎも合わせて、順繰りにボールを回していく。

 おはぎはパタパタと飛びながら、ボールを返していた。


「なんだか、おはぎは飛ぶのが上手くなった気がするなぁ。成長してるのか?」

「ぐるるぅ!」

 

『褒められて喜んでるおはぎちゃん可愛い……』

『おはぎちゃんが小さい時間も、あっという間なんだろうなぁ』

『数年後にはガチドラゴンになってるかもしれないのかwww』


 丈二たちが遊んでいると、どこからかゆで卵の話を聞きつけたのだろう。

 巨大な毛玉がのそのそと歩いてきた。

 ぜんざいはどさりと、ゆで卵の前に寝そべる。しっかりと頂く体勢だ。


『ちょwwwぜんざいさんで画面の半分が埋まったwww』

『卵は映ってるあたり、配慮はしてそうwww』


「あ、あはは。ぜんざいさんにも渡しますからね」

「がう」


 そうして、さらに時間が過ぎる。

 そろそろ一時間。ゆで卵も完成しているだろうかと思った時だった。


 ゴロゴロゴロ!!

 落雷のような音が響いた。

 遠くに落ちた時のような感じだ。


「なんだ? 空はキレイな青色だし……ぜんざいさんのお腹の音?」

「がう」


 『違う』ぜんざいも怪訝な顔をしていた。

 はたしてドコから響いた音なのか、丈二がキョロキョロと見渡すと。


 ペキぺキ!

 卵の殻にひびが入った。

 そして次の瞬間。

 ピシャン!!

 卵から空に向かって、雷が昇った。


「な、なんだ!?」


『卵から雷⁉』

『なんの卵拾って来たんだよwww』

『え、マジで何なんだ!?』


 ぴょこん。

 卵から顔を出したのは、デカいひよこ。

 黄色いふわふわの毛に包まれている。


「ぴぃぃ!!」


 ひよこは卵から飛び出す。

 そして卵の目の前に陣取っていた、ぜんざいのお腹に向かって突撃していった。

 すりすりと体をこすりつける様子は、親に甘えているようだ。


「が、がう⁉」


 困惑するぜんざい。

 頑固なおじいちゃんが孫に甘えられて戸惑っているようだ。

 しかし、どうしてぜんざいに……。


「もしかして、『すりこみ』ってやつか⁉」


『すりこみって何?』

『詳しい意味は置いといて。この場合は生まれた時に、目の前に居た生き物を親だと思い込むこと』

『あのひよこはぜんざいを親だと思ってるのか!?』


 ひよこはご飯を催促するように、ぜんざいに向かって鳴いていた。


「ぴぃ! ぴぃ!」

「が、がうぅ……」


 一方のぜんざいは困り顔。

 珍しく、情けない顔で丈二を見つめてきた。

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